《第625話》『戦いではあるが、勝負でもある』
「貴様の新技、なかなか見事だった」
「…………」
「連続の蹴りより発生させた炎を高速で飛ばし、」
「…………」
「それにて相手を翻弄、自分は自分で、本来のパワーとスピードを真正面から叩きつけることに専念する」
「…………」
「確かに、悪くない戦法だろう」
「…………」
「相手が妾でなければな」
「ぐげぁ~……」
僕では視認するのがやっとだった、冀羅の攻撃。しかし、うわっと思った次の瞬間には、庭のクレーターにうつ伏せの彼の姿が。
どうやら、文字通り「あっ」と言う間に、呉葉にのされてしまったらしい。
――ちょっと可哀想に思えてきた。
「ぢ、ぢぐじょう゛――っ! も、もう一度、もう一度だァ……ッ!」
「その負けん気は買うが、何度やっても同じ結果だと思うぞ――? 寝起きの妾相手にこの体たらくでは、到底貴様では……」
「うるせぇ――! こちとら勝利できなきゃ気が済まねぇんだよォ!」
「だからうるさい!」
黒焦げで飛び掛かってくる冀羅。が、呉葉はそれを一撃のもとに叩き伏せる。
「な、なぜだぁ~……」
「全く――」
冀羅を見下ろし、呉葉はため息。しばらくの沈黙。そして、呉葉は一つ、提案を口にする。
「それ程にまで妾に勝ちたいのなら、お前の得意分野で挑んで来い」
「な、何ィ――?」
「これ以上不毛な戦いを続けるつもりは無い。馬鹿馬鹿しいからな。ただ殴り合うだけが、貴様の取り柄だけではないのだろう?」




