《第624話》『さらなる進化のために――』
「やい狂鬼姫。リターンマッチだ」
「それはすでに聞いた」
真っ黒焦げの冀羅は、玄関の前で呉葉を指さし。未だ深夜。叱られたからなのか何なのか、声はかなり抑えめだ。――意外と真面目なヒトなのかもしれない。
「俺はかれこれ、二度もアンタにぶっちぎられている。一回目は俺の力不足。そして、二回目は――確かに、俺の方が力が勝っていた筈なのに、敗北した」
「ほう、負けたこと自体はしっかりと認めるのだな」
ちなみに、呉葉のパジャマは白地で、縁にフリルがあしらわれた可愛らしいモノだ。ちょっと外へ出るときに使うサンダルを履いて腕組みする姿は、やっぱり鬼神の類には見えない。一応、下の立場に当たる妖怪は目の前にいるんだけどね。
「負けを認めなきゃ、進化はねぇ。そんなことくらい、俺にも分かってんだよ。重要なのは、負けた理由を理解して、次のステップに繋げる事だ」
「分かっているではないか」
「だが――今言った通り、二度目の理由が分からねぇ。パワーもトルクも、何もかもが上だったにもかかわらず、俺は負けた」
「…………」
「最初は三人がかりだったせいだと思った。そうして疲弊して、そこを最後に叩き伏せられた。そう思ってた」
冀羅は、構えを取った。
「だが、俺の中にある何かが、違うって考えてやがる――! 吹け上がり切らねぇ思考が、それだけじゃねぇって、俺に進化へのアクセルを躊躇させてんだ!」
冀羅は、地面を――僕らの家の庭を、強く蹴った。
「だから――もう一度それを確かめさせろ狂鬼姫ィッ!!」




