《第622話》『今日も一日、お疲れ様です』
「夜貴、妾はもう駄目だ――」
「く、呉葉――!? え? え!?」
帰宅すると、呉葉が玄関でうつ伏せで倒れていた。ぐったりとして、まるで潰れたカエルみたいに。
「ど、どうしたの――?」
「や、や、」
「や?」
「――やる気が、切れてしまったのだ……」
「…………」
「…………」
見れば、洗濯機の置かれている洗面所の入り口から、洗濯物の山が覗いている。
そして、いつもは台所から香ってくる夕食のいい匂いもしてこない。
「失格だぁ~、妾は嫁失格だぁ~、駄目嫁だぁ~」
「だ、大丈夫だよ、元気出して? ね?」
僕も、時々何もかもがたるくなることは稀にある。ちょうど、今の呉葉のようなカンジで。
要するに悲嘆する事ではあまり無いのだが、疲れているのは確かなので、僕はその労を労ってあげることにした。
「ほら呉葉、大丈夫だよ。今日はゆっくり休んで、明日やろう?」
「よ、夜貴――っ」
抱き起こし、頭を撫でてあげる。いつも、お疲れ様、と。
「うぅ~」
「ほら、いい子いい子――」
「――うぅ、夜貴ぁ、夜貴ぁ」
「あはは、なんだか子供みたいだね」
「うぅ~、妾は子供ではないぞぉ~、子ども扱いするなぁ~」
「はいはい。なでなで」
「ふわぁ~……なる、ほど――これが、いわゆる噂、の、」
「うん?」
「バブ、み――っ」




