《第621話》『高級品だからと言って送られると困るやつ』
「かつての部下から、こんなモノが送られて来たぞ」
「――ナニコレ?」
呉葉の手には、何やら木切れのようなモノが握られていた。彼女はそれを、妙にご機嫌な顔で握っている。
おまけに、黴のようなものまで。また、何やら妙な事でも始めようと言うのだろうか。
「何をそんな、妙なモノを見る目でみておる? 鰹節だぞ、これは」
「えっ、鰹節!?」
鰹節と言えば、あのひらひらした何かである。出汁につかったり、あるいは、お好み焼きやホウレンソウなどに振りかけたりする、鰹由来の食べ物だ。
「まさか、鰹節がどんなモノか知らんかったのか? これを削って、いつものひらひらになるのだ」
「――でもこれ、黴生えてない?」
「これは敢えて初めから生やしているのだ。黴を生やすことで、保存性をさらに上げているのだな。乾いたペーパータオルなんかで、使う部分を拭って削るのだ。これが、本来の鰹節だ。パックに入って売られているのは、本来削り節と呼ばれるモノだな」
流石にあのひらひらが海の中を泳いでいるとまでは思っていないが、鰹節の本来の姿が、こんな形をしているとは知らなかった。
「へぇ――鰹節って、パックに入ったのしか見たことなかったから、本当はそう言うモノなんだね。それにしても、よく知ってるね呉葉」
「割と常識と思っていたのだが――まあ、時には、長い年月からくる知識深さを披露しておかねばな。いつもいつも、ぽんこつでは締まらんだろう?」
俗に言う、ドヤ顔で鰹節をぷらぷら。
「で、どうやって削るの?」
「え? あ、専用の鉋を使うぞ」
「扱いも木みたいな――でも、うちに専用どころか、鉋なんてあった、っけ……?」
「…………」
「その沈黙、もしかしてと思うけど――」
「ない! あるわけがないっ!」




