《第620話》『英文字に「〇」入れるとあまり丸っぽくみえない』
「しかし、世の中本当に便利になったものだな」
「時々、思い出したように言うよね呉葉」
スマフォを触りながら、本当に思い出したように呉葉はつぶやく。L〇NEで、誰かとやり取りしているようだ。
「昔は、手紙を書いて遠方の相手とやり取りしていたものだ。そして向こうへつくのにも幾日かかったし、すなわち戻ってくるのにもそれだけかかった」
「――呉葉は妖怪達の元締めだったんだし、そう言うのを届けるために早い妖怪とかにお願いしてたんじゃないの?」
「ところがぎっちょん。そう言う奴らに限って、どいつもこいつも面倒臭がりでな――走ることなく、歩いて届けようとしよる」
「な、何だか呉葉の妖怪たちってそんなのばっかりな気がするんだけど気のせい?」
「た、多分、気のせい――だと思いたい」
――狂鬼姫四天王と呼ばれる存在も、みんなどこか変わってる、というか、妙に何か、妙な感じなんだもんなぁ。
「しかし時代が進めば、今度は電話と来た。文字でやり取りではなくなり、遠方の相手と顔を合わせてもいないのに会話できる。そんな話を聞いた当初は、それこそ妾をだまくらかそうなどと思っているのかと思ったほどだ」
「――そのヒト、殴ってないよね?」
「えっ」
「え、」
「…………」
「…………」
「そして時は進んで、また文字を相手に送り届けることのできる時代になった」
「殴ったんだね!?」
話を次へと勧めてしまう呉葉。昔は、今よりも荒かったと聞くが、その妖怪が不憫で仕方ない。
「メールはいいものだ。電話は短い時間でやり取りできるが、記録を取っておくのには一手間かかるからな。連絡事項などを述べるなら、あれほど便利なモノも、そうはあるまいと思ったものだ」
「その前に、ポケベルってのがあったよね?」
「あれは向こうに電話をかけてこいと催促するためのものだ。――と言うか、よく知っていたな。世代じゃなかろう」
「若いヒトだって、時々そう言うのを知ってたりはするものだよ――?」
「そして今、妾がスマフォで使っているのがLI〇Eだ。言うなれば、手軽なリアルタイムチャットだな。通話もできるし、ある意味通信技術の集大成とも言えるかもしれん」
「――ところで、なんで突然、昔を思い出す要は話を……?」
「うむ」
よくぞ聞いてくれた。と、言わんばかりに呉葉はこちらを振り向いた。
「だから、お前もL〇NEを登録するのだ!」
「ぼ、僕はいいよ、そんなの――」
面倒くさいし、なんかテレビでのイメージから、ちょっと怖い。そう思っている僕は、たびたびこうして、呉葉に勧められているのであった。




