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鬼嫁! 呉葉さん!  作者: /黒
第十八章
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《第619話》『ぬくもりに包まれて』

「……――っ!?」


 妾は深夜、心臓が跳ねるような感覚と共に目を覚ました。

 全身に冷や汗をかき、未だに強く拍動が続いている。頭はきゅっと痛いし、若干の眩暈のようなものまで感じる。

 ――原因は分かっている。それは、今さっきまで見ていた悪夢のせいだ。


 突然の惨劇。失った友。傷つけた者達。それを望んだ邪悪な笑み。


 妾が、鬼として覚醒した、平安時代の話。今となっては、遠い遠い大昔。

 けれども、それが未だに、時々悪夢として夜中に魔の手を伸ばしてくる。対処方法などない。ただ妾は、じっと夢の中を漂い、それが過ぎるのを待つだけ。


「くそ――っ、」


 それもこれも、あの偽物のせいだ。

 いや、因果関係などないも同然。もはや完全に独立した自我を持つ幻影も、恐らくそんな事は考えずにイタズラしに来ているのだろう。

 けれども、それを誰かのせいにしなくては、すとんと納得できぬ程、この悪夢は妾の心に傷をつける。

 深々と、ナイフを突き立てたかのように。


「すぅ――……すぅ――……」


 隣では、夜貴が眠っている。

 同じベッドで、枕を並べているのに、一度も手を出してきたことの無い、我が夫。

 けれども、妾はそれも愛おしいし、無論、夜貴が妾を愛してくれていることも、理解している。心は、ずっと繋がっている。


「…………」


 掛け布団の中をゆるりと移動し、仰向けに眠る夜貴の腕に縋りつく。

 今は、人のぬくもりが欲しかった。確かに居る、互いの愛を知る者の存在を、確かめたかった。


「――くれ、は……?」

「む、すまん。起こしてしまったか――?」

「――どうした、の?」

「いや、何、な。深くは聞かず、今はこうさせてくれ」


 けれども。互いに愛していても。重荷を背負わせたいとは思わなくて。ただの我儘のように、言ってしまう。

 けれども、それでいい。夜貴の前では、妾は、ただ好き放題やるだけの、ちょっとアホな嫁で。それで、居たいのだ。


「…………」

「夜貴――?」


 だが思いがけず。夜貴は身じろぎしてこちらへ向き、妾を背中からその腕で包み込んでくれた。


「分かった。こうしておく、ね」

「……――、…………。………………――――――ありがとう、」


 もしかしたら。夜貴には、妾のことなど全てお見通しなのかもしれない。



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