《第六十一話》『発想の転換。家内混乱』
「しかし、未来の妾よ。こうも考えることはできぬか?」
幻影の呉葉が、人差し指を立てて妙に真剣な顔をする。――彼女にとっても、「パワーバランス」の話は重要であるらしい。
「未来の妾は、鬼神『狂鬼姫』の立場をほぼ捨て去っていると言ってよいのだろう?」
「うむ、まあ――ほぼ、そうだな。……なるほど、貴様はそう言いたいのか」
「え、何? どういうこと?」
「何のことはない。既に抜けている場所に返り咲くのだから、むしろパワーバランスが戻るのではないか、ということを過去の妾は言っているのだ」
なるほど。確かに、それならば何の問題は無いのかもしれない。
――あれ? だけどこの前、
「『世の平定』が使命だと勝手に自分で決めていた、って――前に言って無かったっけ?」
「それはそれ、これはこれだ。存在自体が重要である場合もある。こう言う生活をしていても、かつてのしもべ達とつながりが無くなったわけではないからな。要は、気負うか同化の問題なのだ」
「今現在の妾がどんな思慮の元にヒトの子と暮らしているのか、妾には今だ理解できぬ故に、もっと誇りを持って何もしないでいてほしかったところだがな」
「ううん、なんだか難しいんだね――」
しっかりと中身まで理解するには、まだちょっと早いみたいだ。自分が周囲に影響をもたらす存在であるわけではないために。
「――だがまて、それならそれで、いつ消えるか分かったモノではないのだから、やはり問題は起こるのではないか? それに、状況こそどうあれ、『狂鬼姫』が二人いることには変わりないから、力が大きく偏って……」
「だから、言っているだろう?」
「えっ――」
そう言って、過去の呉葉は僕の肩を抱きよせた。
「妾がこの男と子を成し、それに跡を継がせればいい。そして『狂鬼姫』は最低限を除き、他者とのつながりを断つのだ」
「…………」
「…………」
「だろう?」
「――っ、『だろう?』ではないだろう、冗談ではないぞ貴様ァ!?」




