《第616話》『1カメ、2カメ、3カメ』
「穏やかな日々。そして平和な世の中――実に。実に、つまらぬと思わんか? のう、諸君」
招集をかけた、この余、九尾の狐、その配下たち。全盛期よりは規模が小さくなってはいるものの、実力はまだまだ高い奴らが残っている。
どういうわけかこやつらは、先日の騒ぎを忘れているようだが、余はあの時の屈辱を、決して忘れるつもりは無い。そう、ただの徒党を組んだ人間共に負けた、あの瞬間をだ。
よって、今日は彼奴らに知らしめてやるつもりだ。貴様らは、我々がただ見逃してやっているから、地上で息をしていられるのだ、と。
「真なる支配者は、この九尾の狐、藤原 鳴狐である! それを知らぬ愚か者どもをこの剣の錆びとし、己らの無知を、今こそ理解させて――、」
「なんだ駄狐。また何かやっているのか?」
「じゃじゃっ!?」
びっくりした。それはもう、心臓が口から三里は出るかと思うくらいびっくりした。
な、なぜ、なぜ――、
「なぜ貴様がここにおるのじゃ狂鬼姫ッ!?」
どうせアイツは邪魔をしに来るだろう。そう思い、結界を幾重にも張った上で、今日の会合は行っている。突然の宿敵の侵入に、ざわめく部下達。
「なぜ? そんなモノ、どうでもよかろう?」
「よかァないわァ! 何をしに来たんじゃ貴様ァ!」
「何って――お土産を渡しに来たのだが?」
「どうせ碌でもな――何?」
「そら、受け取れ。シュークリームだ」
「あ、何? しゅぅくりぃ、」
突然、何かを狂鬼姫が投げた。間髪入れず、余の視界が檸檬色に染まった。
「ほぶぼっ!?」
「そぉれもう一発!」
「はばべっ!」
「まだまだあるぞぉ?」
「ばばっべ、ば、ぼぼぼばっ、ば」
※食べ物で遊ぶのはやめましょう。
「はっはっは! どうだ、甘かろう! ではな、駄狐!」
「お、おん、の、れぇ――っ」
目元のどろどろを退ける。いつの間にか、狂鬼姫の姿は消えていた。
「な、何をしにきたの、じゃ、あやつ、」
「あいつめ、どこへ逃げおおせたァッ!」
と思ったら、間髪入れず、隠れ家の入り口からまたもや狂鬼姫が現れた!
「き、貴様、よくも舞い戻ってこれたものじゃ、のう――!」
「むわっ!? なんだこのクリームオバケ!? ――って、なんだ、貴様か」
「な、なんだ、じゃとぅ――?」
「貴様のことなどどうでもいい! 折角おやつに買ってきたシュークリーム持ち去りおって、あのパチモンめ――っ」
「――者共、」
「んあ?」
「者共であえぇいっっ!!」
「な、何だ何だ突然!?」




