《第615話》『若人の苦悩』
「冀羅さん!? もう大丈夫なんすか!?」
「ああ……一応、歩けるくらいには、な」
いつもの集まり――俺をリーダーとしたニューモデルな妖怪の集いに顔を出すと、揃いも揃って、心配した顔を向けてくる。
俺は、ラ・ムーの一件で、こいつらも含めて迷惑をかけた。だが、その理由、真実を知るヤツは、恐らくいない。狂鬼姫にリベンジするための力を欲しがったために、それを利用されていたのだ、と言う。
何故なら。俺は人質を取られ、やむを得ず協力したことになっているからだ。
それは、狂鬼姫の計らいによるもの。俺をとんでもないハイパワーでねじ伏せ、ラ・ムーの一件が決着のついたあと。皆の前で、そう説明していたらしいのだ。
ただ説明しただけでは、大抵納得されない。狂鬼姫が、「落とし前」の意味で鉄槌を放ったこともあり、それに対して異を唱えた者はいなかったのだと言う。
――つまり俺は、あのババアのおかげで居場所を失わずに済んだのだ。
「でもまだ、本調子じゃなさそうっすね」
「死んでないことが奇跡と思うくらいのダメージを受けたんだ。流石の俺も、そうそう治り切らねぇよ」
ババアは、何故そんなことをしたのだろう。俺は、ずっと考えていた。
けれども、それは俺にはわかりそうで、わからなかった。何で、自分を傷つけた者に対し、そんな守るような行動ができるのか。
「今日は顔見せに来ただけだ。すぐに帰って、休む」
仲間たちにそう告げて、俺はその場を後にした。今言った通りの理由は勿論あるが、それ以上に、気まずさからあまり顔を合わせていたくない。
そして、そんな自分の情けなさに、怒りを感じていた。
実際、その真実を告げずに今、こいつらの前に顔を出していることが、たまらなくいたたまれない。
いっそ、軽蔑してくれたならすっきりするのに。そう思っている一方で、本当のことを言うのを怖がっている。
――もう一度ババアに会えば。このもやもやとした気分に、決着をつけることが出来るだろうか?




