《第613話》『正義の味方!』
かつて鬼神と呼ばれた妾も、今は一人の男の妻。すなわち、生活は基本それに即したモノである。
故に、買い物は普通にスーパーに行くし、こうして道中、コンビニに寄ることもある。
最初こそ、この真っ白な姿も目立っていたが、街の人々も慣れたのか、かつてのような視線はあまり感じない。
以前は一緒に写真を撮ってくれ、などと言われたこともあったが、最近は滅多にそう言うこともなくなった。――コスプレイヤーか何かに思われていたのだろうか。
「キミ、キミ。キミ、お金持ってそうだよねぇ? 遊ぶ金欲しいんだけど、くれない?」
「な、なんですかあなたたちは!? ひっ――!?」
「なんですかって? カツアゲに決まってるっしょ?」
「いいだろ? 使う目的ばっちり明かしてるしよぉ」
コンビニの駐車場、その隅の方で。純朴そうな少年が妙にカラフルなチンピラに絡まれていた。
三対一。そして体格差。あの、現在押されている小柄な少年が仮に抗ったとしても、瞬く間に虚しくされてしまうことは明白である。
やれやれ。人間であろうと妖怪であろうと、秩序を乱す輩と言うのはどうにも運が悪い傾向にあるらしい。
「おい、そこのチンピラ共」
「あ?」
「金が欲しければ、真っ当に働いて稼いだらどうだ?」
妾が真っ当な注意をしてやると、チンピラ三人衆はこちらをみて一瞬黙った後、笑い転げ始めた。
「ハハハ、何だお嬢ちゃん、俺達に説教でちゅか?」
「正義感に燃えるのは結構! けど、相手を見てモノを言わねぇと、要らねぇ危険に足を突っ込むことになるぜ?」
「ほう?」
コンビニの前に並んでいる、車止め用の防護柵。妾は、その一つを引き抜いた。
「へぁ?」
「そうだな。ちゃんと、相手を見てモノを言うべきだ」
ホッチキスの芯のような形のそれを、曲げて、棒状にする。
そして、それを投げ槍のごとく投げつけてやった。
「なぁ? 悪ガキども?」
「ひ――ッ!?」
コンビニの後ろに立っていた建物に、深々と突き刺さる金属棒。チンピラ共の頭の間をすり抜けたそれは、元の長さの半分程にまで埋まっている。
――チンピラ共は、腰を抜かしてその場に尻餅をついた。
「さて少年よ、大丈夫だったか?」
「え、あ、え――」
「怖がることはない。妾は、通りすがりの正義の味方。悪ガキ共の蛮行が目に余った故、少し叱ってやっただけだ」
そう言って、同じく腰を抜かす少年に手を差し伸べる妾。
颯爽と現れ正義を成す妾。超、カッコよくないだろうか?
――後日。防護柵と建物の壁は弁償した。




