《第610話》『屋内コマンドー』
「――出てしまった、か」
妾は戦闘準備をすべく、納戸へと必要なモノを取りに行く。
最近久しくなかったが、とうとう、この日がやってきてしまった。こんな戦々恐々とした気持ちは、随分と感じていない。
狂鬼姫として、屋敷で寝そべって煎餅食っていた時は、零坐を始めとしたしもべ共が、対応していた。当然だ。何故妾が、自ら手を下さねばならぬ。
しかし、今は違う。今は守るべきものがあり、そして、妾しかいないのだ。
取り出したるは、いつか来たる日のために用意していた超・強力な殺虫剤。
たとえどんぶりたっぷりの青酸カリをむしゃむしゃしても腹痛程度で済む気はするが、どちらにしろ吸い込みたくはないため、市販で売っているマスクもつける。
出番が来ない方がよいモノ、と言うモノは世の中よくあるもので。しかし、かと言って用意していなければ、時が来た際に対応できぬ、という負のパラドックス。
しかし今、その永久ループから抜け出すときが来た。来てしまったのだ。
黒光りする、世にもおぞましき昆虫のせいで。
「ど、どこだ、どこへ隠れた――?」
恐ろしいので、マスク以外にもゴーグルをつけ。ボロボロのジャンパーで完全武装。
奴らは、ヘタな方法で倒すと仲間を呼んでしまう。それは妾の鬼火や腕力でどうにかなるのか定かではなく。と言うと、即ちそれ専用に開発された文明の兵器の方が、確実性が高い。
「ただいまー……って、呉葉!? どしたのその恰好!」
「む、夜貴か。ついに――ついに、始まってしまうのだ」
「え、な、なにが始まる、の――?」
「第三次大戦だ」




