《第六十話》『崩れたバランス。奇々怪々なアクシデント』
「朝っぱらから何事かと思えば、一体どうしてこんなことに――」
呉葉の言うことももっともだ。一体全体、なぜその幻影の記憶を持っていた僕が眠ったことで、その幻影の呉葉が消えなかったのか。
「そんなもの、妾が知るものか。消えていないのだから、消えていないのだ」
「ことはそう言うことと言うだけで解決するような事柄ではないのだぞ――。何せ、幻影とは言え同じ力を持った妾がもう一人いるのだから、パワーバランスというモノがだな」
「パワーバランス?」
「そうだ。この世がなぜこうして平和で、戦乱が起ころうとも延々と続かないのかと言うとだな、それはひとえに、均衡が保たれているからなのだ」
そう言う話は、いかなるところでも聞いたことがある。その代表的な例で言えば、この地球が如何にして生命溢れる星になったのかだろう。宇宙の塵やガスが多くても少なくても、この星に生き物がこうして暮らし続けていられるのは、太陽やそれ周る星々が隕石を防いだり、公転や自転を現在の形で保たせてくれているためだ。
「――パワーバランスが崩れたら、どうなるの?」
「例えば――そうだな。……むーん。むむ――」
「――呉葉?」
「ええっと――」
パリーン!
「うわっ、びっくりした!?」
「こ、このように、突然窓を割って野球ボールの形をしたラグビーボールが飛びこんできたりとか、」
プルルルルル!
「あ、はい。もしもし。――もしもし? え? 『パンツ何色?』 え? あ、切れた」
「このように、いたずら電話がかかってくるようになったりとか、」
しゅびでゅばでゃばでゅばーん!
「鳩が変な声で鳴いたりする!」
「絶対全部ただの偶然だよねぇ!? いや、というか最後の鳩なの!?」
いや、偶然というには変なことが一瞬にして密集してきたけど! それはそれで都合よすぎないかなぁ!?
「と、とにかく! 力の均衡が崩れるということは、世の中に暗雲をもたらす! ということなのだ! のだ!」




