《第606話》『アイスの季節になってまいりました!』
「おい皆! アイス買ってきたよ!」
事務所で仕事をしていると、袋を掲げたディア先輩が戻って来た。確か、ここから南、およそ30kmの地点に現れたと言う怪物を退治しに行っていたと思ったのだけど。
「仕事してください」
「帰って来たばっかりだよ! 帰り道、なんとなく食べたくなって買ってきたんだよ」
「アイスか――久々に食べるな」
「まあ、アンタがアイス食べてる姿が想像できな――、」
「いや、遊に全部持っていかれる」
「地味にオキノドクだね!?」
狼山先輩は、平常時は相変わらず遊ちゃんに遊ばれているようで。けれども、なんだかほほえましいのは相変わらず。
当の遊ちゃん本人は、無表情のままサムズアップを掲げていた。何故か、部屋の隅の方で。
「最近暑くなってきたからねぇ。まだ五月なのに」
「昨日なんて、28度だぜ? 初夏じゃねぇかよ」
「今日は天気のおかげで割とマシだけど、動きゃ一緒さ。おかげで汗だくさ」
「悪いが、あんまり気持ちは分かりそうにねぇ」
「だろうねぇ! 何でアンタ、今どころか真夏でさえロングコートのままなんだよ! 死にたいのか! 自殺志願者か! 見てるこっちまで熱中症になりそうだよ!」
そう言えば、狼山先輩がロングコート以外を着ているのを見たことがない。冬でも、夏でも、全く関係なしに分厚い黒のコートを着こんでいる。
季節感皆無、である。
「俺は寒がりなんだよ」
「限度があるよ――じゃあ、アイスは要らないかい? 寒くなるだろ?」
「いや、アイスは別肌だ」
「腹と同じノリで別とか言うない! ――まあいいや。バニラと抹茶あるけど、どっちがいい?」
「そうだな――バニラをもらおうか」
「コーハイは?」
「あ、僕は抹茶をお願いします」
「あいよ」
「あ、え、私の分はないのです、か――?」
ちなみに、僕の家には冷蔵庫の冷凍室にアイスが備蓄してあったりする。主に、呉葉が。
「あれ――? 箱に中身、が……?」
「ディア――ミスったな」
「あ?」
「遊は、アイスが好物なんだ」
「――名前が出た時点で、僕は察していましたけどね」
皆が、一斉に振り返る。
そこでは、棒アイス系10本を天井からつるした遊ちゃんが、それらをおいしそうな無表情でいただいていた。




