《第599話》『空の彼方に去りし国』
「――夜貴、この世で出来る想像の類は、大抵本当に存在したり、実現できたりするモノだと、妾は思っている」
「は、はぁ――」
「だが、メン・イン・ブ〇ック的にぴかっとやって解決するのは流石にご都合主義すぎないか!?」
僕が膝枕をしている呉葉は、一週間経った今、戦いの傷は綺麗に消えて。叫ぶ。それはもう、大層納得いかなそうに。何故膝枕かって? どうしてか、せがまれたからです!
ラ・ムーの侵攻は無くなり、世界中の手先だったロボットは機能停止。光学迷彩で見えなかったが、世界全体を覆っていた浮遊大陸も、もはや宇宙のかなたへと飛んでいってしまった。
しかし、それでも世間の人々に、特殊な力を持った者達や人ならざる者達が知られてしまった事実は、残り続けることになる。あのような一件の後なので、両者の間に溝は深く、いつまた争いが勃発してもおかしくはなかった。
――と、思っていたのだが。なんとトムさんは、「Resolution、解決はVery Easyデース!」などおっしゃり、彼の所属する組織が、それはもう文字通り、「ぴかっ」とやったのだ。それも、世界中同時に。
「しかも、宇宙の技術とか言っていたぞあの男! ますますあの映画ではないか! なんかもう、いいのかいろいろと!」
「ま、まあ、おかげで元の生活を取り戻せたんだし――」
「――そうだな。それに比べれば、もはやそのようなこと、些末事、か……」
裏のヒト達によって、ラ・ムーの遺したオーバーテクノロジーの残滓も、撤去されて。そして、表の人々からは、何もかもが忘れられて。
何もかもが、元通り。何もかもが、無かったことに。
けど、僕は覚えている。一人の訪問者が、この星を訪れたことを。他に方法を知らず、他の誰にもより良い方法は分からず。それでも、この星に足を降ろそうとしていたことを。
そして、それらの事件が、「僕」と言う存在を再認識させてくれたことを。
「夜貴、夕食は何がいい?」
「藪から棒だね、また――」
「とりあえず、今妾としてはそっちの方が問題だからな。主婦としては、永遠の悩みだ。で、何が食べたい?」
「ううん、そうだなぁ――」




