《第598話》『立つ鳥、跡を濁さず』
「そう言えば、バシャールがエンジンがどうのこうの言ってたな――」
「この穴のせいなんだろうけど……一体、何が起こってこんな穴が空いたんだろう――?」
「すまん、妾がぶち抜いた」
「なぁんとなく分かっちゃいたけどね!」
「下がOcean、大海であることを祈るばかりデース!」
「いや、下の方に見えるのは思いっきりどこぞの都市だぞ!」
地球全体を覆う浮遊大陸が、一区画のエンジンの故障どうして落ちるのかと思ったが、上を見上げて理由が分かった。
どうにも、この宇宙船は亀甲のようなブロックをいくつも繋いで出来ているらしく、僕らが今いるこの場所だけが、明らかに高度を下げつつあるのだ。
「意外とゆっくりに見えるが、もしかしたら割と落ちても大丈夫だったりしないか!?」
「確かに思ったよりも落下速度は遅いけどねぇ! かと言って墜落して問題が起こらないようには見えないスピードは出てそうだよ!」
「く、呉葉、こう、空間転移で何とか――!」
「スマン、力を実はほぼ使い果たしているのだ!」
「マズいデース! 地上はDestruction! 我々はDead! このままいけば、Very Badな事態デース!」
何か手段はないか。僕も、きっとみんなも、頭を巡らせているに違いない。しかし、今落下しているのは東京ドームの何倍も大きな物体であると思われ、ぶっちゃけ、そこまでの巨大建造物を止める手立ては――、
『この映像が再生されていると言うことは、私が倒れ、ラ・ムーが敗北したことを意味しているのでしょう』
その時。部屋の奥中央にあった玉座の背後に、映像が映し出される。一見スクリーンや画面には見えなかったそれだが、今そこには、消えていったバシャールが映し出されていた。
『私は、敗北してもなお地上に傷跡を残し続ける事態は避けたく思っています。負けた時は潔く身を引き、この地を去るつもりです』
突然、足もとがふわりと浮くような感覚を受けた。
『地球上を覆っていた浮遊大陸は、これより全エンジンを停止し、半重力により重力とのつながりを切断。地球の大空より離脱します。今この場に地球上の住民が残っているのであれば、これより示す脱出装置へと向かいなさい』
画面に、宇宙船のマップとルートが簡易的に示される。脱出装置は――この部屋の真下にあるようだった。




