《第592話》『唯一無二、永久独歩』
「住まう――? まさか、そのために侵略まがいのことをやってたってのか!?」
「肯定します。少々大仰ではあったかもしれませんが、先祖たちの生まれ故郷に、再び足を降ろすために行っていたことです」
「それでどれだけのHumanがUnhappyになったト!? Youのせいで、Worldは滅茶苦茶デース!」
「当然、承知の上です。理解した上で、行動を起こしました」
「だったら聞かせてよ――呉葉や、僕達、世界中の表、裏の人達共々を混乱に陥れた、理由っていうのを! 住むだけなのに、どうしてそんなことをしなきゃならなかったんだ!」
移住すること自体を、別に否定しようと言うのではない。広い宇宙、広い宇宙船の中、たった一人であると言う孤独。想像の範疇を越えているが、少なくともそれが悲しいことだと言うのはなんとなく理解できる。
けれど、それでどうして多くのヒトを傷つけなければいけなかったのか。僕も、そして、狼山先輩も、トムさんも、同じことを考えているだろう。
どんな理由があれ、納得できるモノではない。そう思っていた。
「でなければ、私は迫害されるでしょう?」
だから、バシャールの口から発せられた言葉には、思わず頭が真っ白にさせられた。
「この星に住まうに当たり、現在反映している人類の歴史や現在の人々の下調べを行いました。そして理解しました。彼らの歴史は争いと淘汰の歴史である、と」
「――っ、…………」
「人類は巨大なコミュニティの中に異物が混入すれば、それを排除することで集団の維持に努めます。言うなれば、巨大な病巣となる前に癌の芽を排除すると言う、身体のメカニズムに近似したもの。イレギュラーによって発生するリスクを避けるため、異なるモノを迫害するのです。故に、平和的に私が訪問しようとも、同じ轍を踏む可能性が非常に高いと判断しました」
何も、言えなかった。何も。裏の世界に住まう僕らには。だって現に、それを目の当たりにさせられているのだから。
「よって、私はこの星の支配者として君臨し、彼らを管理する立場に立てばよいと考えたのです。絶対的な君主となり、彼らの進むべき方向を示し、それに従うことが優位であると理解させるため。それに当たり、一度強大な力を見せつけ、その後に共通の敵を仕立て上げる。こちらは従属さえ示せば危害は加えないと公表し、その一方敵となる存在には理性的な安全性が確立されていないことを知らせる」
まさにラ・ムーが現れてからの筋道をそのままなぞっているかのような、そんな発言だった。真実に、恐らくは幾分かの虚言を交え、全て成立させ、表のほぼ全員の意思を取り込んでしまった。「敵」と言うのは間違いなく僕らで、正体不明の力を操る僕らは、彼の理論で言えば間違いなく「悪役」にふさわしいだろう。
「なるほどね、アンタの言い分は分かったよ」
応える言葉を無くしていたその時。背後から、よく知った女性の声が響いた。
「けどさ、それってさ――なんとなく、悲しいことじゃないかい?」




