《第591話》『彷徨う無限の孤独の果てに』
「しかし、死の世界となる直前である、終末の足音を聞いたためでしょうか。我々の祖先は、その生存本能を次第に暴走させ始めました。これまで大して増えも減りもしなかった人口が、増加と言う形で変化を始めたのです」
かつて、人口の変容を是とせず高速的な発展を遂げた巨大国家。かつて存在した社会が絶対と決めたそれの重要さは、僕には図ることはできない。
けれど、今まで変化させまいと決めたそれが崩れる。綻びと言うのは、一見大したことの無さげな罅から発生する。
「人が増えれば、循環のバランスに狂いが生じます。元は大陸であるとはいえ、加速度的に人が増えれば住む場所は無くなり、食料の分け前は現象してしまう。そうして――ラ・ムーと言う国家は、一度幾らかの勢力に分かれ争い合う事態となったのです」
「それで、今はあなた一人に――?」
バシャールは首を横に振った。――確かに、争いがあったにしては、この場所は綺麗すぎた。争いの跡など、白い壁面には一切見られなかったのだ。
「そんな状況には、流石に皆辟易していきます。ほどなくして、我々の先祖は巡りゆく星々から資源を回収していくことで、生き永らえていったのです。時には、生命満ちる星から搾取したりなどをして」
「略奪――」
「ええ、略奪です。地球にいた時は考えもしなかった、他者から奪うと言う行為。それを、生きる事に思考がシフトしたラ・ムーの者達は行い、今のこの浮遊大陸が完成したのです。そしていつからか、搾取行為はロボットたちに代行させるようになり――この巨大国家の元、人々は徐々にかつてのおだやかな暮らしを取り戻していきました」
語る時間にして僅かのことではあるが、きっと、その中にはぎゅっとこの国の歴史が圧縮されているのだろう。何千、何万という気の遠くなるような年月の中に存在し、宇宙をさまよい続けていた国――。
「しかし、今度は落ち着いた生存本能が、我々を衰退させることとなりました。地球を飛び去ってから、とても長い年月が経っていた我々は、バランスのとり方を忘れていました。結果、繁栄と生存から消極的になり、出生率は落ち込みを辿り――そして、今は私、バシャール一人が残されることとなったのです」
「一度崩れたBalanceを取り戻すことは、出来なかったのデースね――」
「生まれた時には、既に両親はおらず、機械によって私は育てられました。そんな時、私は元いた星に興味が湧きました。かつて先祖たちが暮らしていた世界と言うのは、いかなる場所であったのか。幾らかの年月をかけ、そうして今、戻って来た。私は、目を疑いました。私以外の人間が、そこでは生きているではありませんか」
バシャールはふっと息を吐き、目を細めた。
「そして私は、この星に住まうことを決めたのです」




