《第590話》『唯一無二の文明だったころ』
今より、およそ7万3000年前。後に太平洋と呼ばれる海洋に、巨大な大陸の上に生まれた巨大国家があった。
人口はわずか約800万。対して面積約2700万平方キロメートルと言う巨大な大陸の上に反映するその国は、同時期の他大陸の人類と比べても、異様と言う程の加速度的な発展をし、晩年、その科学技術は現代の人類など及びもつかない程の進化を遂げていたのである。
それでありながら、彼らは皆一様に気性が穏やかであり、大きな争い事を起こすことはなかった。それゆえに、10億全ての人民を結集し、ニューロンを繋ぎ合わせたような発達が可能であった。
互いが互いを高めるために、時には協力、時には競い合い、そうして出来上がったモノを結合する。繁栄と言う観点から見れば、これ以上ないほど完璧な社会を作り上げていたのである。
だが、彼らは外の世界に興味を持つことはなかった。何故なら、極地的に発展し、常に情報ネットワークの集合体にも等しい彼らは、発展のためにこれ以上の拡散は必要ないと考えたからである。
即ち、現代で言う、北アメリカ大陸と同等の土地で充分。人口の増減も必要なしと判断し、そこに一切のメリットを見出せなかったのだ。
しかし、ある時この「地球」に、異変が発生する。氷河期と呼ばれる環境の急激な変化。現代で言う、「最終氷期」である。
気温の上昇。それに伴う海水濃度の変容、海流は流れを変え、それによって、結果として星の大半が氷に閉ざされる。
その影響は、彼らの偉大なる王の名から名付けられた国家「ラ・ムー」にも及んだ。
だが、彼らの技術力をもってすれば、その地球規模の変化を止めることが可能だった。氷河期を打ち消し、地表の凍結を押さえこむこともできた。
だが、それを行った際のシミュレート結果を、彼らはどうすることもできなかった。本来起こるべくして起こる環境の変異を強引に抑え込んだ結果、より厳しい環境にこの星は見舞われ、例外なく全ての生命は死滅してしまうのである。
そんな結末を、彼らは望まなかった。ならばと決定されたのが、大陸ごと宇宙に逃れると言う計画である。
この「浮遊大陸計画」は、すぐさま着工された。地球そのものとの繋がりを切断し、地球圏外に飛び出すため、ありとあらゆる技術が活用され――全てが可能となるのに、1年とかからなかった。
そうして、彼らは巨大な宇宙船と化した大陸で、氷河期へと見舞われる地球を後にしたのである。




