《第589話》『孤独の王』
「まず、あんたが何者かを聞かせてもらおうか」
「…………」
「せめて、返事くらいしてくれるとありがたいんだがな」
「――? おっと、申し訳ありません。補聴器の調子がよろしくないようです」
「っ、ふざけ――ては無いようだな」
「私は状況を理解しています。このような場に立たされ、そのような行為をできる程、剛胆ではありません」
バシャールは耳を指でいじり始める。その身体は、見た目通りとても衰えているようだ。
しかし、妙に威圧感と言うか、重苦しい気配を感じるのは、こんな状況でありながら妙に彼が落ち着いているためだろうか。
「で、あんたは何者だ?」
「そのようなことを知りたいのですか?」
「当たり前だ。こっちは突然あんたの襲撃を受けてるんだ。何のために、どういう目的でこんなことをしているのか、知る必要がある」
「なるほど、確かにそうかもしれません。そうですね、何からお話しましょうか。――かつてこの浮遊大陸には、それは多くの人間が生きていたと聞きます」
「今は――?」
「私、一人となってしまいました」
「一体何があったんだ?」
「何もありません。――いえ、敢えて一つ原因を述べるならば、限界に来ていた、でしょうか? 原因不明の事態により、次の世代を担う新たな命が、非常に生まれにくくなってしまったのです」
「そいつはお気の毒なこった。だが、それとお前の正体、何の関係がある?」
まだ、彼の語った話の中に、根本的な正体に関することは述べられてはいない。
「私は、このラ・ムーで最後に生まれた命なのです。かつてこの星を去った、ラ・ムーと言う超科学国家の、ね」




