《第五十七話》『夫婦の絆』
「――あんなふうに言っちゃって、よかったの? なんだかすごく重要そうな話をしてたみたいだけど……」
昼と夜の狭間。逢魔が時と呼ばれた時間帯。街灯に照らされながら、妾と夜貴は並んで歩きながら帰路につく。
「いいのだ。むしろ、お前こそよかったのか? あの男を倒すのが任務だったのだろう?」
「僕の恩人だし、考え直すって言ってるから、大丈夫かなって」
「ふっ――いい兆候だ。自覚はなくとも、徐々に鎖から抜け出して……、」
「よかァないわよッッ!!」
ああ、そう言えばこいつもついてきていたのだった。随分とやかましい金魚のフンだが、いつまでついてくる気なのか。
「穹島の処分をしなかったことに加え、その鬼も元は夜貴が退治を命じられていたらしいじゃない!?」
「あー、まあ、ええっと――」
「そいつは妾が答えてやろう」
「っ、アンタに聞いてないわよ! 大体、鬼のクセに夜貴のお嫁さんって何!? 何が悲しくて、鬼になんかに夜貴を取られなきゃならないのよ!」
「えっ――取られる……?」
「え、あっ、ちがっ! 別に夜貴が誰と結婚しようが知ったこっちゃないけど! ないけど! ないけど!」
「ふむ、藍妃――とか言ったな? 妾の目を見るのだ」
「はぁ!? 何? 私に術をかけようとでも言うの!? 凶悪な鬼――」
「夜貴ー、そいつ、ちょっと押さえつけておいてくれ」
「ごめんね藍妃ー」
「えっ、あ、ちょっと夜貴!? そいつの味方する――」
一から説明するよりも、こうしてやった方が早い。一瞬目が合った隙に、ちょっとだけオマケに術をかける。
「――何をしたの?」
「確認もせずによく妾に協力する気になったな」
「え? だって、呉葉のことは信用してるし」
「ふふっ、そうか。――で、何をしたか、だったな? 何、ちょっと記憶をいじっただけだ。……妾が、組織所属の『人間』である、とな」
オマケは術をかけられたときの反動で、その場でぼーっと突っ立っている。後30分程は、ずっとこのままだろう。結構強力かつ隠密性の高いモノをかけたからな。
「では夜貴よ、今のうちに家までダッシュで帰り、心ゆくまでいちゃいちゃしようではないか! ――くっくっく、今夜は寝かせんぞ?」
「え、え、ええっ!? そんな、ちょっと、突然――心の準備が!?」
「いつになったら心の準備が完了するというのだ? なぁに、お前はただ本能と流れに身を任せれば――」
「妾がいることも、忘れてはならぬぞッ!」
ああもう! こいつ(過去の妾)もまだいるんだった! 本当に、面倒臭いな!?
とにかく、とにかくだ! 締まらないが、妾達二人の世界は守られたのだ! 夜貴は妾の愛する夫であり、その闇を晴らすのはこの自分の役目であると!
いずれ、その鎖は解かれる。何せ、かつて鬼神と呼ばれたこの妾が、全てを懸けたいほどに愛しているのだから。




