《第586話》『バシャールの想定外』
「っ、な、何――!?」
今までの振動よりも、はるかに大きな揺れ。僕はそのあまりに大きなそれで、尻餅をついてしまう。
「これハ――……。……――っ、損傷個所を特定。検索――……、」
一方、バシャールの方も状況に困惑しているようだった。挙動は相変わらずピクリともせず、何を考えているのかは分からないが――声色が、その動揺を表していた。
「未確認の衝撃が、第1527、1528、1529エンジンを直撃。しかし、それに加えテ――」
「どうしたよ、バシャールとやら?」
「…………」
「――?」
しばらくの沈黙。そして――、
「っ、Robeが――!?」
長身だった、そのローブ姿が――唐突に崩れ落ちた。……ガシャンと言う、金属音と共に。
「む――」
「ろ、狼山先輩、危ないですって――!」
狼山先輩は、稼働はしつつも動かない機械兵たちの間を抜けて、バシャールのローブへと近づいて行った。そして、その黒い布を漁り始める。
中から、円盤のてっぺんに人の頭代の楕円球をつけた機械が、顔をのぞかせた。
「――これは、機械だな。ただ空に浮かんで、上からローブを被っていただけだ」
「じゃあ、このヒトもロボット――?」
「いや、やはり通信機だとか、その手の類のモノだろうな。さっきも言ったが、何の安全策もなしにノコノコ出ては来ない」
「別にそれ、本体が他にいると言うだけで、Machineじゃないと言う証拠には――」
「う、うるせーな! 何にせよ、元締め的なヤツがいるのは分かったんだ、あいつ本人を探し出すぞ!」
「手がかりはあるのデース?」
「う――」
狼山先輩は、ひきつった顔を見せる。――が、アテは無いわけではない。
「さっきの衝撃があった場所に、行ってみませんか?」
「衝撃があった場所――……っ、そうか、確かにそうしてみる意味はあるな」
あの異変があって、バシャールにも変化があった。と言うことは、それだけの何かが、その場所であったと言うこと。
僕らはこれまで来た道を、取って返す。――それにしても先ほどの衝撃。呉葉の身に、何かが……?




