《第585話》『揺さぶり』
「あんたが代表者か?」
「いかニモ。アナタ方の頑張りに敬意を表し、こうして姿をあらわし――、」
その時、バシャールと名乗るその背の高いローブを貫く光があった。
――僕らと一緒に来たうちの一人が、プラズマビームライフルを構えていた。
「へっ、ノコノコ出てきやがって、探す手間が省けたぜ!」
「アナタ方の国では『善は急げ』と言う言葉があることを存じておりマス。ですが、『急いてはことを仕損じる』と言う言葉もあるのデショウ?」
「な、なんだと――!?」
バシャールは、平然としていた。顔の隠れたその姿では、その表情を推し量ることはできないが――その声は、どこかしたり顔を思い浮かばせるものだった。
「そりゃあ、何の策もなく俺達の前には出てこないだろうぜ。そして――少なくとも、あのローブの向こうにいるのは、機械とは違う何かだ」
「御明察の通リ。このローブは、ただ他者に声を伝えるために遠距離から動かしているにすぎまセン。ワタシは、安全なところにてお話させていただいておりマス」
「一体、何の用なの――? どうして、このタイミングで僕達の前に……」
「簡単デスヨ。アナタ方に、これ以上この浮遊大陸ラ・ムーを荒らされたくなかっただけデス。機械の兵隊たちでは、痒いところに手が届かないようデスカラ」
「じゃあそのBlackなRobeでMeたちと戦うのデースか?」
バシャールは首を横に振った。長身のせいか、圧倒的な存在感を放つその存在は不気味だった。
「タダ、取り引きをしようカト」
「取り引き――?」
「戦えバ、この場所はこれ以上傷ついてシマウ。なれば、我が陣営に取り込んでしまうコトガ、最善の策かと思いまシテ。それが故に、取り引きを持ちかけようと考えたのデス」
「――僕達に、ラ・ムーの一員になれ、と?」
「それは、地上にいるMeたちのFriends達も一緒にデースか?」
「ある程度、融通は利かせましょう。しかし、世界中に存在する、全てというのであれバ、それを飲むことはできまセン」
「ふざけんな――ッ! 俺達が、自分のためだけに戦っているとでも思ってんのか!」
狼山先輩に、僕もトムさんも同意する。他の人達も同意する。――けど、その中の何人かは、迷うような素振りを見せていた。
精神的に追い込まれるほどの襲撃を受けていたのだ。――揺れ動かないハズは無かった。
バシャールの懐柔と言う策は、少なくとも、一部の意思を削ぐのに一役買っていた。
「ヨク。よぉく、考えてみてクダサイ。アナタ方自身の、心の声に耳を――、」
バシャールが次の言葉を紡ごうとしたその時。
――ひたすら大きな轟音と共に、周囲が激しく揺れた。




