《第584話》『空の上のゴーストタウン』
「振動が、ここまで――」
またもや、室内が振動する。その揺れは細かく振動する地震のようで、しかし、僕は今起こっているそれが呉葉の戦っている証であることを知っている。
けれど――幾度となく起こるそれは、徐々に大きさを増しているような気がする。なんとなくではあるが、苦戦させられているような感じがしてならない。
「――それにしても、こう、なんつーか、」
狼山先輩は、周囲の景色を見回しながら言いよどむ。
それでも、言いたいことは僕にもよくわかる。ある程度予想はしていたが、ここまで来ると言葉を失わざるを得ない。
綺麗に整っているだけで、生活感の無い無数の家たち。
見た目は僕らが使っている家とは少々異なる豆腐型。しかし、窓から見える家の中は、綺麗に整ったベッドやリビングと言った、いつでもヒトが住み始められるほど。
しかし、何というのだろう。埃の一つすらないのに、どういうわけか、人が使っていた痕跡はまるでない。いや、なんとなく誰かが使っていたような感じは不思議と覚えるが、今はそれが、無い。
ただ隅々まで掃除されたこととは異なる、奇妙な感覚。言うなれば、あるべきものが消えたのに、それが最初からあったのか、なかったのかわからないと言う虚無。
直感とは不確かなモノではあるが、その一方で、理性よりも先に真実を見極めている時もある。
「ここもResidential、居住区のようデスが、他と同じようデースね」
「ゴーストタウン。まさか、天空に浮かぶ船の中が、こんな風にすっからかんだとはな」
「最近作られた――と言うようではないみたいですけど」
「ああ、分かってる。だが、出てくる住民と言えば、」
その時。廊下の奥から幾度目にもなる、ロボット兵たちの軍団が姿を現した。
「金属の仰々しい塊ばかりだ。なるべく温存したいからな――幸い、ここは隠れる場所がある」
「All Members、全員、近隣のHouseに身を隠しましょう!」
「いエ、それには及びまセンヨ」
その時。女性のような高い声が、機械の駆動音鳴る廊下に響いた。
「自己紹介しまショウ。ワタシの名はバシャール。皆さん、お見知りおきヲ」
機械の軍団の、その後ろに。真っ黒なローブのそいつがいた。




