《第583話》『鬼神の一撃』
冀羅が、八つの腕で地面を殴り付けた。すると、大地が隆起し、爆発が地面を伝って襲い掛かってくる。
「う、く――ッ」
空間転移を使わず、最小限の動きと力で致命打を避ける。それでも、威力はとてつもなく。妾は空中に、人形のように投げ出されてしまった。
「俺、ハ――俺は、これダけ苦しんでルの、に……ッ! どうシ、て、てめぇはァあああああああああああああああッッ!!」
素早さは大きく減退しようとも、並の速さは未だ持つ。飛翔してきたそいつは、妖気を纏い、腕と蛇頭を振り上げて下から猛然と迫りくる。
今、この状態で躱すには、何らかの妖力を使わねばならない。しかし、ヤツを倒す一撃のために、ここは温存する。否――むしろ、真正面から向かってくる今がチャンスか。
「ならば、妾が今度は問うてやろう」
「この期に及んで、俺ヲ馬鹿にスんのカ――ッ! もウ御託はうんザり、」
「ならばお前は死ぬのか?」
「ハ――?」
「取り返しのつかないことをした。大勢の者達に迷惑をかけるきっかけになった。そこには同胞達も含む。確かに、顔向けできぬと言う気持ちは分からなくもない。むしろ、それが当然だ」
妾は。全神経を集中させて自らの背後、青空の元空間の大穴を開けた。ミサイルを防いだ時と同様、あるいはそれ以上の大きさのそれを。
「だが、だからと言って逃げるのは卑怯だと、貴様は分かっている。だから、こうして重圧に対してもがき苦しんでいる。だが、そんなモノに意味は無い。悩んでいる間に居場所を無くす。居場所がなくなれば、かつていた、今もいるハズのお前自身は死んだも同然となる。生きとし生ける者は、他者が認知して初めて、そこに存在していられるのだ」
それを――すべて圧縮にかかる。いや、変換と言うべきか。
本来、空間は開くよりも閉じることに力を使う。何故なら、一度開いた綻びは、放置すればいくらでも広がり続けるからだ。まるで、ピンと張った布に切り込みが空いたかのように。
だから――広がりゆく力を、妾自身の力へと変える。
「今一度問う。それが自らの犯した過ちであるならば、おとなしく死を受け入れるのか?」
答えは聞かない。待たない。身に余るほどの力が、妾自身に引き裂くような痛みとして襲い掛かってくる。それだけのエネルギーを、拳に込める。そして――、
冀羅を、放ってきた攻撃もろとも打ち砕く。




