《第582話》『黒き流星』
「さあ冀羅よ、拳と拳、タイマンで語り合おうではないか――!」
ディアをこの荒野のような大地の端まで飛ばし、指をぽきり、ぽきりと鳴らす。
一方、空中のアイツはその間仕掛けては来なかった。表情を作れるような顔ではないために、どんな理由で何もしてこなかったのかは推し量ることができない。
「――おまエ、は、なぜ苦悩しなイ? どうしテ、俺とハ違う……?」
「妾とて、そこまで唯我独尊のつもりは無い。最初から言っているだろう、少なくともいい気分ではないと」
冀羅は、元の面影もない程巨大化した姿で降りてくる。元の冀羅の他にも、無数の妖怪の気配を感じる。チューニングとヤツは称していたが、それらは全て、ラ・ムーによるものだろう。
「なラ尚更わかラねぇ――ッ! なんデ、なんでてめェはハ……ッ!」
「言うなれば、年の功かもしれんな?」
「ふざけてンじャねぇえええエえええエエええええええェぇーーッッ!!」
両肩から顔を覗かせる蛇が、炎と吹雪を同時に吹き付けてくる。
もはや、ヤツの攻撃に対する手段が空間転移以外に無いのが歯がゆい。――とりあえず、二人減って燃費効率は大分よくなったが。
「そうだな、確かに今の返答は悪ふざけが過ぎたかもしれん」
「ぎゅゴッ!?」
しかし、もはや俊敏さは見る影もない。背後に回って、背中に一撃。冀羅の巨体は前方に吹き飛び、地面に這いつくばる。
「だが、ただ言うだけではお前はあらゆる意味で納得しないだろうな。妾の今までの言葉ですら、文句を言い続けてきたお前ならなおさ――ッ!?」
「ギ、グギグググ――……ッ」
即座に振り返り、炎の弾を一発放たれた。咄嗟に妖力を固め、腕を交差させて防御するが、妾自身は多大なダメージを受け、吹き飛んでしまう。
「――妾は、自分は相当強いと思っていたが、自惚れだったと自覚せざるを得んな」
まともに殴り合って勝てないのは、ディー〇インパクトやアルマ〇ドンのような巨大隕石くらいかと思っていたが、同じ妖怪相手にこれでは、少々自信を無くす。
――だが、一つ。一つだけ、今の冀羅のパワーを超える手段がある。




