《第581話》『後悔先に立たず』
『ラ・ムーの兵器ニ使わレる、アンチ・ミュータント・マテリアル――AMMは、俺ノ力を解析シて、生み出さレたモンだ……俺が言っテいル意味、分かルか?』
ヤツの言う、AMMとやら。それはおそらく、我々が苦汁をなめさせられ続けてきた、対裏武装の放つエネルギー、もしくはそれと密接に結びついているのだろう。実に、分かりやすい名前だった。
『つまりダ、俺があイつの言葉ニ乗らなきャ、どいつもこいつもあンなみじめな想イ、しなくて済んだんダよォ――! 何もかモ、俺ノせいなンだよォ……ッ』
「あいつ――? ラ・ムーの使いか何かか」
数刻前、冀羅が妾に問うた。「今があるのはお前のせい」だと。それは、そっくりそのまま、本人にも返ってくる言葉だったというワケだ。
そして、地上に侵攻したロボットも。もしかすると、それ自体も冀羅本人をある程度参考にされて作られているのかもしれない。冀羅の一つ前の姿が少々似ていたのは、それが故の可能性もある。
――妾が、それでも顔を上げて前に進むと言った時、ヤツはどんな気持ちだっただろう?
「おい、ディア」
「うん? 何だい呉葉ちん?」
「駄狐連れて、お前も先へ進め」
妾は一歩前へ進み出て、振り返らずにそう告げる。
「――あんなのがいるところに一人残して、ハイソウデスカって、言えると思ってるのかい?」
「言える言えない関わらず、この場は妾の注文を聞き入れてほしいところなのだがな」
「三人がかりで盛り返したと思ったら、今度は規格外のパワーに圧倒され始めてるんだよ? アホ以外の何者でもないだろ」
ディアの言うことももっともだ。妾も、立場が逆ならば同じ文句を言うだろう。
だが、妾は理屈のみで語れるほど理知的な性格もしていない。
「これは、年長者の責任と言う奴だ」
「知ったことじゃないよ。それで友人がヤバいのを、見過ごせるわけがないだろ?」
「ふむ、ならばもう一つ付け加えよう」
「あ?」
「妾もまた、いいカッコしたいのだ」
「――は?」
「責任だのなんだの語っておいて、三人で抑え込みましたじゃ、カッコ悪いだろう? 妾は、夜貴の嫁として胸を張って居たいのだ」
「無い胸をかい?」
「やかまし。だから、自分の領分は自分の力でカタをつけたい。だから、己の手で決着をつけるのだ。――それでは不満か?」
「それで納得できると思ってるのか。――と、言いたいところだけど」
まあ、ディアは妾のことはよくわかっているだろう。今、ため息一つ。それは、そのことを証明している。
「こうなるとテコでも動かないしねぇ、アンタ――オマケに、その気になりゃアタシら飛ばせるし」
「ふざけるな狂鬼姫! 余はそもそも協力しているつもりも、無く、」
「ボッシュート」
「故に聞く理由も――……」
「ほら、こんな風に。――全く、我儘放題のお姫様だよ、アンタは」
「直すつもりは無いがな!」
ディアは刀を仕舞い、バリバリと頭をかいた。それも、実に呆れたように。
「分かったよ、気が済むようにやりな。ただし、死んだりしたら承知しないよ」
「当たり前だ。死んでは、夜貴に胸を張れないからな!」




