《第579話》『若さゆえか、それとも心根の違いか』
『だか、ら、ただ力が欲しかっただけ、だと――』
「それだけでは不自然だと、妾は言っておるのだ。己の欲望でひた走るようなヤツならば、それもあり得なくはないし、実際、そう言う輩なぞ今までいくらでも見てきた」
赤い瞳が四つ輝く顔の表情は分からない。こちらをじっと見つめ、静かに佇んでいる。
「だが、そう言う奴ならとっくにこの場から逃げ出していてもおかしくはないだろう。何故なら、今はここにいるデメリットの方が大きいからだ。状況は引っくり返りつつある。それが分からぬ程頭が悪いわけでも無し、今なら、完全に返される前に逃げる事さえ可能だ。しかし、貴様はそれをしない それは貴様がここに居なければならない何かがあるのではないか?」
『…………』
「貴様が何か思い悩むことがあれば、聞いてやらんでもない。確かに、妾は今更出しゃばるのもおかしな、旧き存在よ」
構えを解いて、向き直る。どうしてだか妾には、コイツがそうも悪いヤツには思え無い。
「だが、新たな時代を行く若き者共の、相談に乗ってやるお節介くらいは、出来ると思っている。それを一蹴するかどうかは聞く者次第だが、温故知新とも言う。過去の積み重ねがあるからこそ、今がある。だから――、」
『だから? 何だ。まさか、もうチェッカーフラッグ振られたつもりで居やがるのかよ?』
冀羅から、再び妖気が爆発的にあふれ出す。
「……――っ!?」
『年寄りのそう言うところが嫌いなんだよ……ッ! 上から見下ろしやがる、そして説教くせぇ! それにてめぇは、何にもわかっちゃいねぇ――ッッ!! ゴフッ!』
冀羅のむき出しの背骨のような腰が縮こまり、胸部と鼠蹊部が接合。
そうして出来上がった部位中央に亀裂。いきなり、殻を剥いだムカデのような胴体が伸びあがってくる。
更に側面からは、皮を破って鳥のような足が六本出現。それをまさしくカマドウマの脚のように折り、大地に立てて身を起こす。さらに先端からは爬虫類ような尾。地面を一撃鞭打ち、大地を砕く。
『今更――、』
最後に。今までは背中だったその個所から、前方に鋭く尖った、鎧兜のような頭が出現した。中央の横に切りこまれた空間からは眼が一つ赤く輝き、それはまるで、死兆星のように存在感を放っている。
『今更――どのツラさげて戻ればいいってんだよッッ!!』




