《第572話》『摂理をも破る進化』
また、姿がかき消える。直後、真上から四つの脚によるドロップフォールキック。
躱す余裕なく、かと言って対応して力をぶつける間もなく、ただ防がざるを得ない状況。それが、絶え間なく、幾度となく続いている。
「く、ぐ、うぅ――ッ!」
「踏ん張れ、呉葉ちん――ッ」
「おまえ、こそ――!」
しかも、咄嗟ゆえに一人で止め切れず、二人で拮抗するのがやっとな程パワフルであるため、なおさら質が悪い。
当然、それでは勝利など夢のまた夢であり、間違いなくいつかはこちらが膝を折る他ない、負の悪循環だった。遅れて吹き出てくる炎もあり、消耗の勢いも激しい。
『このままプレッシャー続けでもいい、が――生憎、まどろっこしくダラダラやりあうのは好きじゃねぇんでなァ……ッ』
「……――っ!」
突然、冀羅の纏う妖気に変化が生じた。
直後、明らかに異質な灰色の蛇の首が、冀羅の尻尾のように伸びあがった。
『俺様の進化は、フルチューンを経て、留まることなく先を行く――!』
機械的なフォルムとは真逆の、生き物的な尻尾が大きな咢を開く。
そして、妾とディアの力を合わせてこしらえた妖気の壁に大して、紅蓮の炎を吹き付けてきた。
『ブッ潰れろよォッ!』
更に冀羅の背中からも、蛇の頭が。加えて、肩口からは赤黒い毛並みの熊のような腕が一対生えてくる。
増えた蛇は吹雪を。元々あった腕は熊のモノに合わせたかのごとく豪腕に変化し、計四つの腕となって力そのものを叩きつけてくる。
「っ、まともにやりあっていられるか――ッ! ディア、後ろに跳べ!」
「――っ!」
一か八か。妾は空間に穴を開け、後方へと跳躍する。
『ちっ――まんまと逃れたか』
アドリブにしてはうまく行った。妾とディアは逃れて近場に転移。他方では、拮抗する相手を無くした攻撃の応酬が、激しく地面を抉っている。
「――流石のアタシも、今度ばかりは白旗あげたくなるんだけど?」
「お前が弱気発言とは、なかなかどうして珍しい――と言いたいが、本音は同意したいぞ」
妾達は、遠方で二対の翼を――片方が蝙蝠、もう一方が鳥のそれを生やす冀羅を目にしながら、乾いた笑いを発しあった。
だが、現実は無視と言うわけにはいかない。化け物よりも化け物じみていく、本人曰く「進化」。ヤツの言葉を借りるなら――どこまでギアを上げてゆくつもりだ?




