《第571話》『圧倒』
「消え――ッ、ぐふォッ!?」
「呉葉ちん!?」
漆黒の巨体がかき消えたかと思えば、次の瞬間妾は吹き飛ばされていた。
見ると、妾が立っていた位置には、脚を振りかざしたままの金属の化け物が立っている。
「冗談、みたいに速――ぐッ!?」
更に、冀羅お得意の跡から発生する爆炎までもが巻き起こる。その威力もまた尋常ではなく、妖力の壁だけでは防ぎきれずに肌を焦がした。
『オラオラ女ァ! 次行くぞォ!』
「く、ぐ――ぁ!」
同じようにして、ディアもまた妾の隣に飛ばされてきた。あまりの速度に、コイツも対応しきれなかったらしい。
『ボサっと止まってんじゃねぇよ』
「――っ!?」
背後に回られた。四つの脚が斜め上空から、連続して重い蹴りを放ってくる。
まともに受け止めようとするのは自殺行為と判断。妾は高密度の結界を展開し、こちら二人へと降り注ぐそれに対応する。
『俺のパワーを抑え切れるリミッターはねぇ――!』
が、それも容易く破られる。そして――あっという間に、我らの身を曝された。
「アンタこそ、調子に乗ってんじゃないよ――!」
ディアは後退しながら、拳銃で退魔弾を撃ち込んだ。どんな妖怪であろうと、最低限ですら致命打を与える弾丸である。
――が、それを冀羅は見てから余裕と言わんばかりに回避。容易く、ディアの背後を取り、仕掛けにかかってくる。
「図体とスピードが、あからさまにちぐはぐではないか――!」
妾は鬼火を鞭のようにしならせ薙ぎ払う。だが、それもまた、容易に回避された。そして同じく、飽きずに背後を取ってくる。
「ここだ――!」
『おおっとあぶねぇ』
ディアが、目まぐるしい事態にも混乱せずに斬撃を放つが、それも躱されてしまう。
『トロい、トロすぎるぜ! まるで亀みてぇだ!』
調子に乗った発言。だが、実際まるで妾達は、そのスピードに追い付けてはいなかった。
これほど厄介な相手は、実に久しぶりだ――!




