《第570話》『一時代の覇者』
「何が、『そうせざるを得ない』だ――!」
「――っ!」
ぞわっと、冀羅を取り巻く雰囲気が変わった。
「説教クサいことから回しやがって――! 偉そうに吹かしやがって……! 調子くれてんじゃねぇぞ、ホント、いつまでトップ気取りのつもりだ――ッ! ヒトの気も知らねぇで、俺様のことを全否定かよッ!」
纏う妖気が色濃くなる。赤黒い炎が大男の身体を覆いつくし、そして広がってゆく。
それはまるで、大空を果て無く覆う暗雲のよう。
だが今はその大地に渦を巻く獄炎は、
やがて一か所に収束。その主の姿を曝していく。
――そうして現れたのは、一台の黒いスポーツセダンだった。
「車――?」
「――っ!」
丸形四灯の赤いテールランプ。暗い金色をした、六つのスポークが伸びるホイール。どこか古めかしく、力強く、それでいてスマートなフォルムのそれが、後ろをこちらへと向けて、存在していた。
だが、それが――、
「っ、今度は何だい――!」
それが、某ロボット生命体のごとく変形し始める。
赤い四つのテールランプが持ち上がり、車名の記された中央が奥へ、両サイドが結合。
前後のタイヤ周辺が分割して稼働して車体そのモノが立ち上がり、底が形を変え、身体の前面をかたどっていく。
『いいぜ、俺様をそんなに煽りてぇってんなら――ッ!』
四つの足に、一対の両腕。赤い瞳が四つ並ぶ頭部。腰にはタイヤとそれを囲うフェンダー。
――現れたその姿は、色や部品の差異あれど、裏の者達を追い詰めたロボットに酷似した姿だった。
『二度と、そんな気起きねぇようにしてやる』




