《第五十六話》『目を覚まさせる、という荒療治』
「『奴ら』は、構成員の教育の過程で、自らの価値は任務を達成することだと教える。それも、洗脳に近い形でな。これが、どう言うことであるか分かるか?」
夜貴とオマケは、互いに顔を見合わせる。今一、ピンと来てはいないようだ。それだけ、二人の深層心理に深くその意識が根付いているのだろう。
「お前たちも、早く気が付くんじゃ。己の命は、どこまで行っても自身のためにあるということを。それに気が付かぬ限り、お前たちは使い捨ての駒も同然なんじゃぞ!?」
飄々とした態度をとっていても、やはり教え子が可愛いのだろう。今までの様子がまるで嘘のように、その表情は二人に訴えかけていた。
「――この期に及んで、まだ私達を混乱させようとしているの?」
「穹島先生――誰かの役に立つことの、何がいけないんですか……?」
だが、どれだけの言葉を尽くそうとも。どれだけ必死になろうとも。二人がそれを理解することはなかった。なぜなら、他の意見を排除する排他的意志も、組織の教育に含まれているだろうから。
それは、ハンターが敵の言葉に揺さぶられないようにするという方法であると同時に、やはりその者を強固に縛りつける。
「ぐ、どうしたら分かってくれるんじゃ――ただいいように扱われるだけの道具にされておるというのに……」
――全く、構成員を救うために脱退し、尽力していると聞いたが……この調子では一体誰が救えるというのか?
そもそも、秘密保持のためにあそこは裏切り者を消すスタンスだったはずだ。それで今ハンターを送りこまれているのだろうが、これでは一矢報うことすら難しかったに違いない。
例え過去の妾を使ったとて、「平和維持継続室」を一朝一夕で潰すのは不可能だ。
それに、妾から見れば――何よりも夜貴が大切な妾から見れば、あまりにもこの計画には「ヒト」というモノが感じられなかった。別に、穹島の性格がどうとかではなく、この年寄りの方法には、未来が無い。
「おい、ジジイ」
「な、なんじゃ――?」
だから、妾は。
「貴様の勝手なやり方に、妾の夜貴を巻きこむな」
この能天気なシワジジイに一言文句を言ってやることにした。




