《第568話》『二対一』
「――ハッ、そんなに俺様に構ってほしいかよ? モテモテだな」
「フッ、その通りさ。相手してくれなきゃ、女を泣かす悪い男になっちまうよ?」
「ハハッ、口が減らねぇな!だがよォ? さっきまでのこと、忘れたわけじゃねぇよなァ? 俺様のパワーとスピードに、手も足も出なかったろ?」
地面が波打つ。同時に、冀羅が加速する。
「あっという間にブローさせてやるぜェッ!」
確かに、あいつの言う通り。パワーもスピードも段違い故に、先ほどはなかなか苦労させられた。挑発したディアから片付けるつもりなのか、一瞬にして接近。足を振りかざす。
だが――、
「さて、そうなるのはどちらだろうな若造?」
「――ッ!?」
空間に穴を開け、妾はそれに両手を通してディアへと向かった蹴りを受け止める。
予定していない地点で防がれたため、一瞬反応が遅れたのだろう。その隙を見逃さない。脚が離れる前にひっつかむ。こうすれば、どれだけ速かろうが逃げられない。
「ディア!」
「呉葉ちん、ナイスアシストォ!」
そこに、ディアが鋭い刀の連撃を叩きこむ。さらに退魔弾のオマケ付き。
「オラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!?」
濃い妖気が冀羅自身を守っているらしく、その周囲で黒い飛沫が弾ける。しかし、それは本人の力そのモノであるらしいのか、その顔を苦痛に歪めていた。
「こ、のォ――ッ!!」
「っ、く――!」
掴んでいた冀羅の足が爆炎に包まれ、妾は咄嗟に手を離してしまった。そのため、ヤツをまんまと解放してしまう。
「っ、卑怯だぞ鬼ババァ! 二対一かよ!」
「悪いな。そうのんびりもしてられんのだ」
「くそが――ッ! 調子に乗りやがって……っ! オマケに、また空間に穴を開けやがる」
有事の際でなければ、一人で相手をしてやっただろうが。苛立ちもあらわに顔をしかめる冀羅には悪いが、ヤツとてドーピングクサいことをやっているため、とやかく言われたくない。
「その空間転移で――世界中の奴らの首を絞めてたことにも気が付いてねぇのかよ?」




