《第566話》『決戦の地』
「ぐ、く、フン――ここは本気を出すには少々手狭なだけだ……っ」
「口が減らねぇな。年寄りは年寄りらしく、おとなしく隠居してりゃいいんだ」
「当初、妾はそのつもりだったのだがな」
「その割には随分目立ってたじゃねぇか。しかも、今もその真っ最中と来た」
「非常事態に、隠居だのなんだの、言ってられるわけが無かろう。同胞がピンチに陥ってなお、自宅で寝そべって煎餅齧ってられる程、剛胆な神経はしておらん身でな」
「ちっ――ああいえばこう言う……ッ」
「日本語を一から学んでくるのだな。屁理屈でも何でもなく、正論を言ったうえで、正しいと思ったことを成しているつもりだ。お前と違ってな」
「あン――?」
「大方、大口叩いたにもかかわらず妾に敗れ、言葉でも勝ち目無しと踏んで、ラ・ムーに媚びを売ったとか、そう言ったところだろう?」
こいつの、どうにも意固地と言うか、負けん気の曲がり方は、妾にはそう見えた。
これが、若さと言うものなのだろうか? いつまでも若い気持ちを保ってきたつもりだが、流石に尻は青くない。
「ハッ――そう言うのは、俺様に勝ってから言うんだな?」
冀羅はジャケットのポケットから、掌に収まる程度の球状の物体を取り出した。そしてそれを、指で何度か撫でつける。
「っ、うわ!?」
悲鳴。誰か一人のモノではない。その場にいる者の大半が、何らかの驚愕の声をあげた。
それもその筈だろう。突然床が、空港の動く歩道のように、そしてそれを越える速度で動き始めたのだから。
おそらく、取り出したのはこの場所のコントローラーなのだろう。何人かは転倒。それにも構わず、足もとは滑るように動く。そして――、
気が付けば、妾達は暴風吹き荒れる空の下、荒野の上に立っていた。
「これでもう、言い訳できねぇだろ。決着をつけてやるぜ、この浮遊大陸ムーのど真ん中でなァ!」




