《第565話》『フルチューン』
「そォら!」
「くっ――」
やむを得ず夜貴を仲間たちの元へ投げ飛ばし、両腕でその蹴りを受け止める。
すさまじく、重い一撃。以前のコイツとは比べ物にならず、骨が軋んで痛い。
「忘れてねぇよなババァ?」
「む――!」
直後、足の裏から爆発するように炎が上がる。その威力も、以前とは比べ物にはならず。見た目の燃え上がりはさほど変わらずとも、圧倒的密度の妖気。まるで、針の山を押し付けられているかのようだ。
「呉葉ちん!」
妾の背後から、その頭上へとディアが飛び出す。銃弾の雨、そして幾重にも及ぶ斬撃の軌跡。そん所そこらの者では、まず間違いなく再起不能になるような攻撃の嵐。
「ハッハァッ!」
「ぐ、う――ッ!?」
しかし、一瞬冀羅の姿がブレたかと思えば、爆炎と共にディアは吹き飛ばされた。壁に一度叩きつけられ、床に膝をつく。
「遅すぎて、低いギアだけでも充分すぎるぜ?」
「…………」
「あン?」
冀羅の手足が、糸に吊られるようにして引かれる。その力は――遊によるものだ。これで、動きを封じられた、か?
「今度はそこのチビガキか。よく俺を捕まえられた、と言いたいが――」
プチプチと、糸の切れる音。容易く断てるわけもないそれを切り、またもやその姿がブレる。
「遊!」
「――っと、ォ」
容易く妾の傍をすり抜けた冀羅は、遊へと向かう前に狼山の銃撃に晒される。が、それは一発たりと当たることは無く。
遊へと行く足を切り返し、まっすぐ狼山へと向かう。
「躱してみろよ! 動きが読めるんだろォ!?」
「っ、早すぎ――ッ」
一撃与える瞬間、狼山は衝撃を逃がすように跳びつつ銃を盾に身を守った。しかし、例えダメージを最小限にする方法を取ったところで、その全てをゼロにできるわけではない。
「――こんなモンかよ」
そして悠々と我らのど真ん中に立ち、ため息をつく。
「こんなモンかよ、つまんねぇな」




