《第564話》『力のあるべき姿』
「よォ、待ってたぜ。お前らが来るのをよォ」
赤い瞳をギラギラさせながら、そいつ――冀羅は不敵に笑っていた。その様子からはコイツらしさを感じるところがあるが、纏う妖気はまるで以前とは別人だった。
「光栄だな。だが、不思議と嬉しくはないぞ」
「ツレねぇな鬼ババァ。こっちは、首をながぁくして待ってたってェのによォ」
その背後から、四つ腕のロボットがまた数体歩いてくる。まるでそれは、冀羅自身が連れてきた兵士のよう。その銃口を向けられている妾達は、さらなる戦闘の予感に身構える。
「お前らはお楽しみの邪魔だ」
――だが。一瞬冀羅の姿がかき消えたかと思うと、そのロボットの軍団たちは一瞬にして破壊された。火の粉の中、部品を撒き散らかすそれらの中央に、長身の男は着地する。
「――っ!」
「俺は、お前らを俺自身の手で倒すために、ここまで来たんだよ。有象無象なんざ、ただの妨害行為以外の何者でもねぇ」
そして冀羅は、一見何もないような廊下の天井の端を振り返った。
「そう言う事だバシャール。コイツは俺の喧嘩だ、一切手を出すんじゃねぇぞ」
それだけ言ってから、冀羅はこちらへと向きなおした。
様子から察するに、やはり内部のあちこちにカメラでも配置されているのだろう。そして――バシャールとやら。投げかけた言葉からも考えて、恐らくそいつが冀羅を勧誘した者なのだろう。
「俺はな。ブッ壊したいんだよ」
冀羅の放つ気配が、増す。
「大昔からいるからっつってお山のてっぺんに座っている奴を。そして、そいつが尻尾を振る、支配者気取りの人間を」
一体どういうカラクリなのか。それは、ともすると妾と同等――あるいは、それ以上。
「だってそうだろ? 妖怪はパワーが全てだ。余計なパワーウェイトレシオなんてモンは、本来必要ねぇ。そして、この世は本来弱肉強食。その道理に従うなら、ただ知恵が回り小賢しいだけの人間も、頂上に立ってるのはおかしいってもんだ」
その妖気が、爆発する。
「だからこの俺様がぶっちぎってやるのよ! この、余計なしがらみだらけの世界をよォッ!」




