《第561話》『貪欲に己が正を成す』
「っ、早速出たか!」
扉が開くなり、その向こうにいた無数のロボットたちが振りむいてくる。呉葉を始め、共に着たヒト達は、一斉に身構えた。だけど――、
「生意気幼女の作ったジャマーの出番だ! 夜貴!」
「うん――!」
呉葉が合図するのと同時に、僕は手に握っていたスイッチを押しこんだ。
そのすぐ直後。ロボットの銃口が、こちらへと向けられる。放たれるは、僕達の特殊な力を破壊するビーム弾。それにより、世界各地にいた裏の存在を、恐怖に陥れてきたのだ。
――だが、今日のこの瞬間は、弾が出ることは無かった。
「わははははは! 見たか、目論見通りだ!」
「行くよ、アンタら!」
「フッ――今こそ、」
「反撃、の――……時」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
皆が皆、雄たけびを上げて飛び出してゆく。あれほど僕らを追い詰めたロボットの兵隊たちへと向かいながら。
ある者は炎を。ある者は電撃を。それぞれの得意な能力を行使しながら、攻撃していく。
そして、そのどれもがロボットにダメージを与え、破壊する。今までのように、バリアで阻まれるようなことは無い。全ての特殊能力が、彼らに影響を与えている。
「すべて、空間を繋げてエネルギーと効果を取り寄せている、か。それを妨害するだけで、文字通り一転攻勢だな」
鬼火による炎の弾丸を無数に撃ち出しながら、呉葉はニヤリと笑う。
僕は、当初諦めようとしていた。それどころか、世界中に敵視された姿こそが、正しいあるべき姿だとまで想いこんでいた。
だけど。世界の平穏と、自分たちの幸せを、呉葉や皆は必至になって両立しようとしていた。例えどれだけ敵視されようとも、自分たちの存在を主張し、それでいて共存しようと言う強い意志と共に。
それを見ていたら――ラ・ムーの支配下にある今の世界が、偽りの幻像のように思えた。
犠牲なく何かは手に入らない。二兎を追う者は一兎をも得ず。戦うことは世界の平和を乱すことだと、そう考えていた。
だけど、犠牲なくとも何かを手に入れてもいい。二兎を追い、二兎とも得てもよい。
そんな無茶苦茶な考えを、呉葉達は実現しようとしていた。そして、そのための努力をたくさんしていた。
本当にそれが正しいのかわからない。実現するのかわからない。まさにそれは、神のみぞ知るところだと、僕は思う。
けれど――それだけの意思を持って実行する想い。それを裏切られることは、あってはならないと、僕は心の底から思った。




