《第560話》『穢れ無き空間』
「――ここがラ・ムーの本拠地か」
イヴと幼馴染の助力を得て辿り着いた、その空間。メンバーは、妾、狼山と遊、ディア。他の事務所や、そう言った組織に所属していない者達数名。そして――、
「なんだか、病院みたいだね――」
夜貴。妾の愛する夫――であるが、はっきり言えば、この中の誰よりも確実に戦力としては低い。すなわち、言うまでもなく最も危機的状況に晒されやすいと言うことであり、正直置いて来たかった、と言うのが本音だ。
だが、夜貴は共に行かんとする際、こう言ったのだ。
『自分の奥さんを危機に立たせて結果を待つだけなんて、やっぱりできない』
――と。
正直、「お前どうした!?」と言わんばかりの変化っぷりだったが、その不意打ちのような言葉と行動に、妾のハートは見事に撃ち抜かれてしまった。
夜貴にはいいところがいっぱいある。が、男らしいかどうか問われれば、いくら妾でも首をひねらざるをえなかったのが今までだ。
しかし、ここへきてその発言である。これは惚れ直しざるをえんではないか!
なお、誰かに話したくなって、ディアにそのことを話したら、「アンタらの互いの間にあるハードルが低くて、ほとんど心配しなくてすむ」と言われてしまった。なんのこっちゃ。
「病院か――妾としては、映画のバイオ〇ザードにおける、アンブレラ基地を思い浮かべるがな。どこまで言っても真っ白な壁と天井が続く様など、まさにその通りではないか」
「――白すぎて、逆に気分悪くなりそうだよ」
「酔い止め、飲むか?」
「景色酔いしたわけじゃないって――」
「おいお前ら、社会見学に来たんじゃねぇんだぞ――?」
むむ、妾ともあろう者が、どうにもいろいろ興奮状態にあるらしい。ザ・クールビューティで完全無欠の鬼神としては、あまりカッコよいとは言えなくもない。
そうしてしばらく歩き続けたその先に、高さ5m程の、大きな扉が見えてくる。真ん中に境目のあるそれもまた、壁と同じく真っ白で、夜貴ではないが目がチカチカする。
ここから、激戦が予想されるだろう。だが、妾達は己が尊厳を主張すべく、怯んでいてはならない。
それぞれが、想う決意があるだろう。それを胸に、全員が扉の前に立つ。
まるでそれを見止めたかのように、真っ白な扉が開いた。




