《第五十五話》『鎖という名の呪い』
「――さて、残るは貴様だな」
「て、てっきり、このまま忘れ去ってくれるかと思っていたのじゃが――?」
「あの、穹島先生――流石にそれは、耄碌したんじゃないかとおもっちゃいますよ?」
「樹那佐は樹那佐で、しばらく見ない間に毒舌になってしまっておるのう!?」
妾と夜貴、そしてオマケの三人で、事の発端となった年寄りを囲む。一瞬、若者が寄ってたかってジイサンを苛めているようにしか見えないのでは? と思った妾は、やっぱり人間社会に慣れ切ってる。まあ、いいことだ。多分。
「――ともかく、儂を止めたところで、何も変わりはせぬぞ?」
「縛られた状態で言われたって、何も説得力無いわよ」
「ちがう、そうじゃないんじゃっての」
「貴様が言いたいのは、鎖がどうとか、そう言う話だろう?」
「そう! その通りじゃ! 流石裏伝説の鬼神! 聡いのう!」
「縛るなら、そちらの方がしっかりしているからいいだろう、ということだろう?」
「ニアミスじゃとぉ!? こんな老体を鎖で繋ごうというのか!?」
「首輪もあるが?」
「ジジイにSMとは誰得なんじゃ!?」
「呉葉ァ、穹島先生ェ、話が進まないよ――」
「「これが歳を召した者達のオールドギャグ!」」
「年寄り的な要素皆無じゃないの――っ!」
いかんいかん、ついノリでふざけてしまった。だが、商談なども関係の無い話から始まるだろう? これは、そういうタイプのアレだ。きっと。
「――で、鎖ってなんのことよ?」
「先ほども問うたが、お主らが戦うのは何のためじゃ?」
「それは――」
「否、言い方を変えよう。お前たち自身の価値は、どこにあると考えておる?」
「…………」
夜貴もオマケも、そろって沈黙した。すぐに言葉が出るはず。自分が何のために、これまで修行し、戦ってきたのか。自らの存在意義を問われ、すぐにそれが浮かぶはずであろう組織の先鋭二人は、何かを言いかけたように口を半開きにするだけで、言葉を返せない。
「儂が『平和維持継続室』へと反旗を翻したのは、それに気が付いたからじゃよ」
穹島 栄ノ輔は、疲れ切ったような笑いを漏らし、二人の核心をついた。




