《第558話》『決戦への足掛かり』
「ボクにも、内に眠る力があるのかもしれないね。そもそも、そう言う家系だ」
小さな体に、サイズの合わない作業台。幾らか高さの高い椅子に座った幼女は、ピンセットでつまんだ指輪を小学校で使うような顕微鏡の上へと配置すると、縫い針の先端を使って弄り始めた。
――それにしても、妙に台座の分厚い顕微鏡だな。
「ふむ、自覚するような出来事でもあったのか? 妾にすら、何も感じ取れぬが」
「――君の場合、別に探知が得なわけでも何でもない一介のショボイ鬼神だろう?」
「んなっ! 流石の妾も本気でブチ切れるぞ!」
「幼女に助力を頼んでいると言うのにかね?」
「ずぅ~ん――……」
「く、呉葉ぁ! 気を確かに!」
「う、ぐっ、う、うむ――!」
心が軋む音が聞こえる気がするが、それに負けるつもりは無い。無い。――無い。
――そうして、しばらくイヴの作業を見守る。同じように興味深々な連中が集まってきているが、それに気を散らす様子もなく黙々と続けている。
――しかし、縫い針などでよくぞあんな作業をこなせるな。知能だけでなく、手先の器用さも圧倒的だ。……おお、指輪が円に沿って割れたぞ。
そこから更に何事か作業を始めている。時には注射針の先端から薬液を垂らしたりなどを行い、ますます見ているこちらからは何をやっているか分からなく。
そしてさらに作業が進んだかと思うと、PCにつながっているケーブルを指輪に噛ませて、何やらカタカタいじり始めた。それなりに現代社会のことは分かっている身ではあるが、こと専門的なことはまるで理解が追いつかん。
「ふむ、大体は分かったよ」
そして、大して時間がかかることもなく。幼女はこちらを振り返った。
「とりあえず、念を入れて電波遮断装置を作っておいて正解だった。開かれたら強制的に居場所を発信するようになっていた。これが常時電波のやり取りをしていたらと思うとぞっとするが」
「えっと、それで、どう――?」
「ひとまず、ここに書き込まれているコマンドは一種類。外部と空間を越えて力や物品をやり取りする命令だ」
「――っ! これも妾の力と類似した力か!」
「それを、特定の状況、場所によって、繋げる先と穴の大きさを選択している。それが三種類」
「僅か一種類が、三つにつながっている、だと――?」
「一つは、バリアだ。能力持ちが接近すると、恐らく本拠地だろうが――そこからエネルギーを、空間を越えて取り寄せ、展開する」
「銃の力ではなかったのか――」
「もう一つは、おなじみの銃を取りよせるモノのようだ。物体そのものが、この中に入っているわけではない。そして、残るは――例の転送装置と関連しているものだ」
イヴは、その年齢にそぐわぬ強気な笑みを浮かべていた。
「ボクなら、その命令を仕込んだ物品を用意してあげられる。さて、どうするかね?」




