《第554話》『危機回避』
「まあ、まともに考えればその指輪っぽいモノが鍵だな」
「でも、それだけじゃどうにも――」
狼山さんが遊ちゃんと共に持ってきてくれた、転送装置らしきモノの情報。だが、確定情報ではない限り、おいそれと動くことはできない。
「――いや、遊の直感に、間違いは無いだろう」
そこへ、今の今まで、どうしてか遊ちゃんと喧嘩していた狼山先輩が戻ってくる。――頭に、タンポポ畑を作り上げて。
「戻って来たと思ったら、漫画や小説などならカットされてもおかしくない程下らん言い争いをしていた片割れが、何を言うんだ」
「いや、だってなァ――!」
「『心配だった』と『心配だった』のぶつかり合い、まるでどっちが相手より好きかを言い争うバカップルではないか!」
「お前までもがそんな風にからかうのか!」
「えっと、それはともかく――少々言いづらいですが、どういう根拠で……?」
「――改めてそう言われると、どうにも説明が難しいんだがな」
頭のタンポポを引き抜きながら、狼山先輩は続ける。
「遊は、状況の先読み能力、直感と言う方面なら俺よりずっと高い。あいつの何気ない行動、意味わからない行動が、その後とんでもなく有用であったことはザラにある」
「特殊能力、ですか――?」
「さて、な。だが、その読みと直感に、俺は幾度となく救われてきた。今まであいつと共に任務を繰り返してきたが、遊が居なきゃ、年に一、二回は死んでいた」
「そして、今回の遊の行動、か。一応話し合いでは(一応)普通の人間である狼山、その他が偵察に行くことが決まっていた、そしてそれをあいつは聞いていたハズだが、」
「その他でーす」
「狼山さんと違って普通の人間でーす」
「うるせーぞお前ら!」
「――通常ならば、勝手な行動は集団を危険に立たせかねないのだがな」
事実、迂闊な行動を取れば、敵はぞろぞろ集まってきていた。だが、遊ちゃんの行動で戦うことになったロボットは一機だけだ。かなりの数を、この隠れ家に至るまでに相手をしているハズなのに。しかも、その後に追手が追いかけられた様子はない。
それも、狼山先輩の言う、遊ちゃんの「先読み」で、危険を最小限に減らした結果なのだろうか?
「そして、俺達がどうすべきか悩んでいたところに遊があの行動に出たのは、必ず意味がある」
「その意味とは?」
「ぶっちゃけ、それは俺どころか遊にも分からないらしい。ただ、遊が『こうしたほうがいいかもしれない』と言う行動が、毎回当たりを引いている、と言うのが事実なんだよ。つまり、本当に動物的勘に近い話だ」
「心配だった、と言っていたが、お前の身の安全とか、そう言う話ではないのか?」
「――おそらくだが、転送装置の調査で俺達が困窮し、次の段階に移行するのに時間がかかることを読んでいたんじゃないか? そこへきて、指輪から飛び出る銃だ」
「――どこまで言っても、説得力皆無だな」
「それも、理解しているつもりだ。確かに逼迫した状況とは言え、いくらなんでも結果を急ぎ過ぎているきらいもあるからな」
市民たち全員が付けていると言う指輪。ラ・ムーの技術の一部であると言うそれ。
狼山先輩は、指輪を市民たちが全員嵌めていることに、気が付いていたと言う。
――もしかすると、指輪や転送装置よりももっと重要な事態が、そのままでは起こったのかもしれない。




