《第553話》『撃退』
「遊、しっかり捕まってろよ――ッ!」
「……――っ、」
抱えたまま、森の中を突き進む。腕部のカメラが破壊された場合、ヤツの正確な射程距離は半減することが分かっている。
――とは言え、こっちは体力の限界がある人間だ。その上、まだまだあちらの方が、足は速い。
「遊、頼む!」
「ん――!」
身体が横から強く引っ張られる感覚。俺の出した速度はそのままに、人間の足では不可能な曲線を描いて走る方向が変わる。
上空から垂らされる遊の糸に吊られ、振り子のようにぐるりと行先を変えたのだ。俺が丁度このあたりでいい、と思ったところで、糸の抵抗が切れる。
対するロボット。後ろから聞こえた足音に、一度大きく失速したような歩調の減りを耳で感じた。だが、方向転換して、すぐに追いかけてくるだろう。
だが、有効射程に入るまでの距離は稼げた。そのまま、先の木々の間から差し込む光めがけて走り抜ける。
「遊!」
「ん、ん――……!」
合図をし、そのままその先へ。俺は地面を強く蹴り、身体を反転させる。
足元に、いくつもの木々のてっぺんが広がった。
崖の向こうへと飛びだした俺は、リボルバーの弾6発全てを撃ち尽くす。
ロボットの視界は、頭四つのカメラ、下半身二つのカメラである。
丁度六つ。それら全てにクリーンヒット。余すことなく破壊する。
そして、俺は今、空中で遊の力により吊られている。さらに、ロボットは走ったことによる慣性を殺しきれず、そして、視界がブラックアウトしたため方向転換すらできないだろう。
憐れロボットは、俺達の足元をすり抜けて。崖の下へと転落していった。




