《第551話》『攻防ともに優れた歩兵』
「お前ら、散開してヤツの周りを囲め!」
「は、はい!」
幸い、ロボットは一機のみだった。俺達はヤツを翻弄すべく、三方向から同時に仕掛けることにする。
「こっちだ!」
俺は自分の拳銃を取り出し、ロボットの頭へと弾丸を放つ。ほぼ正面から見ると、まるで蜘蛛の頭のようにも見えなくもない。
頭部で弾ける火花。しかし、所詮俺が使っているのはただのピストル。金属の塊にはただの豆鉄砲のようで、ビクともしない。
ロボットが、こちらの銃口を無視して完全に遊に狙いをつけた。
「ちっ――!」
俺は遊の小さな身体に、突進も同然の勢いで衝突する。その直後を、ロボットの銃撃が通り抜ける。
発射されたのは、恐らく実体の存在しないビーム系の攻撃だろう。遊の後ろにあった一本の木に大穴が焼け空いて、音をたててへし折れる。
「この――ッ」
「こっちを、見なさい――ッ!」
他二人もまた、俺と同じく拳銃を何発も撃ち込んでいた。足や胴体、頭、様々なところで砕けた弾丸が赤い花を咲かせる――が、やはり大してダメージは与えられていないようだ。
そればかりか、完全にそれらを無視して遊へと攻撃を行ってくるロボット。軽い身体を小脇に抱えて、木を影に、走る速度を強弱付けて一定にしないよう走る。
市街地へと出るために、大きな武器を持ってきていなかったため、武器での撃退は難しいだろう。あのビームライフルは異能持ちや妖怪特攻らしきモノがあるようだが、そもそも、生身の人間が喰らっても致命傷では済まない。
「っ、俊也――?」
「ようやくお目覚めか馬鹿遊!」
「っ、馬鹿、って――……ッ」
「話は後だ、逃げるぞ! ――どォわ!?」
仲間の援護射撃などどこ吹く風。多脚をうごめかせ、図体の割に乗用車並みの速さでロボットは追いかけてくる。障害物となる岩や木を、ビームで壊し、溶かしながら。おまけにこちらに照準まで合わせて。
相変わらず、特殊能力しか眼中にないようだった。




