《第550話》『機兵の手、迫る』
「――じゃねぇ、のんびり見てる場合なんかじゃ……ッ」
怪人トンマロクは、かなり遠距離から、遊の手で操ることができる。仕組みこそさっぱりわからないが、少なくとも街一つ跨ぐくらいの距離からはコントロール出来るハズだ。
しかし、それを操る際は全くの無防備になる。怪人というワケではないが、陽動用の人形を使ってもらう場合も、いつも俺が隣にいて守護していた。
ただ、糸を介して能力を使っているわけで、その力は当然異能に分類される。
そして遊は不愛想で悪戯好きだが、全く何も責任感を感じないわけではなく。むしろ敵に辿られ隠れ家がバレることを考えると、そこから離れている可能性が高い。
「おいお前ら、行くぞ!」
「え、は、はい!」
『第二段! 半分だけの半壊したハンバーガー!』
撃ち落とされても新たに出現し、好き勝手暴れまくる怪人を尻目に、俺達は駆け足でその場を後にする。
離れていてもお互いの位置が分かるように、簡単な発信機(と言っても他に探知されないよう工夫はされているが)を俺達は持ち歩いている。それはこの状況でも同じで、俺は発信機と受信機を両立した無線機のようなそれを取り出す。
――いた。案の定、隠れ家から離れた山奥だ。
住宅密集地を抜け、そこにたどり着くと、案の定遊が一人で突っ立っていた。はた目からはぼーっとしているようにしか見えないが、今まさに、あの怪人のコントロールを行っているところなのだろう。
――と、そこへ、
「狼山さん!」
「分かってる!」
遊に近づく、土につるはしを立てるような音。
人形少女へと、キャタピラではなく足を使って歩くロボットが一体、遊へと迫ってきていた。




