《第547話》『行列のできる転送装置』
「案の定、か」
街の中に作られた、ラ・ムーへと行先がつながっているであろう転送装置。ヒト一人広々入れる程度の大きさの筒に足を踏み入れ、中から操作を試みてみるがうまくいかなかった。
原因を、周囲が銀色に覆われ外のまるで見えないその中で考える。そもそも装置の中に操作できるモノなど一つもなく。敢えて、強引に、無理やり考えるとしてスライドドアの開閉が必要なアクションだと考えて幾度となく行ってみるが、うんともすんとも言わない。
「おい兄ちゃんまだか、早くしてくれ!」
トイレかよ! ゴンゴンと叩く音とオッサンの声が聞こえ、心の中で突っ込んだ。
不審がられないよう敢えて夕方に来てみたが、よもや並ぶとは思ってもみなかった。人気のお店に並んだあの時を思い出すが、事態はそうのんきなモノでもない。
大体、街の人数に対して装置の数が少なすぎるんだよ! まだ中の人間が転送されていないと、外にある装置上部のランプがオレンジ色になる。どことなくレトロチックと言うか、一昔前のSFみたいなデザインのそれが、僅か20基。そりゃあ、ヒトが殺到すれば足りなくなるに決まっている。
一応、狭くはあっても詰めてはいれば同時に複数人転送できるようであるが。
「すまん、ちょっと忘れ物したみたいでな。ポケットを漁ってたんだ」
転送装置を出て、オッサンに謝罪しつつその場を後にする。「後がつかえてんだ」と少々乱暴な口調で言われたが、どうにもこのオッサンだけがやたらと怒りっぽいわけではないようだ。
「悪い、何にも分からなかった」
「むぅ――外から見ている我々にも、さっぱりです」
少し離れて待機している仲間の元へと、一度戻ることにした。――しかし、本当に対照的な体格をした奴らだなホント。
パッと見、武器を持ち込んで入っているわけではないので、それがカギとも考えづらい。と言うかあんなバカでかいモノ、平素から持ち歩けるわけがない。
人々は、いかなる方法であの転送装置を使っているのか。稼働している以上、方法が何かあるのには違いないが――それらしいものは何も見当たらない。
「――こういう時、遊ならあっさり解決策を提示して来たりするんだがなァ」




