《第544話》『普通の人間、と言う事』
「ふっ、やっぱり思った通りだったぜ」
ニヤリと笑った直後に偵察に行った狼山先輩本人が、戻ってくる。その顔は、またもや不敵な笑みを浮かべていた。
「戻って来たか――その様子だと、本当に一切戦闘の類は無かったようだな」
「一体、どういう――?」
僕らは先日この洞窟へと逃げる際も、何度となく表の人間やロボットに追われていた。
特にロボットの方は、どこにいても僕らをすぐに探知してしまい、僕らの精神までもを疲弊させる要因として機能していたほどだ。それだけ、索敵能力が高く、偵察に行くにしても一苦労なハズだ。
幸い、ロボットは居住区格周辺の警備だけにとどまっているが――何にせよ、まともに出歩くのは難しい。こうやって隠れているのさえ、一所に止まるのさえ難しいのだ。
「早い話が、あのロボットたちは長銃と同じ技術が使われてるんだ」
「それは身に染みて妾も知っている。最弱状態まで疲弊していた最中とはいえ、妾の鬼火を弾くとは思ってもみなかった」
「だが、弾けるのは異能などの特殊な力だけだ。俺の銃は普通にバリアをすり抜けた。――もっとも、金属の塊に鉛弾を撃ち込んだところで、と言うカンジだったがな」
そして、と、狼山先輩は続ける。
「俺はロボット共に探知されることは無かった。この意味が分かるか?」
「つまり――能力を所持している者を、犬のようにニオイを嗅ぎつけて見つけている、と?」
「ご名答だ。ちょっと忙しい事態になるが、俺を含めた『普通の人間』で道を開き、その後にお前たちが続く。そして移動装置を乗っ取り、奴らの本拠地へと攻め込む。作戦としてはこんなところだろう」
「むぅ――」
「どうした? 何か作戦に穴――まあ、もとよりひねり出した案だから、それも仕方ねぇが」
「いや、そのようなことではない」
「うん――?」
「『普通の人間』とは、何なのだろうな、と」
「俺! 俺! 俺は人間! ただの人間だ!」
「それは翻弄された冀羅が気の毒だろう。お前の戦いを先日初めて見たが、あんな先読みだけで戦いを互角以上に成立させる者、他に知らんぞ」
「頑張れば誰だってできるだろ!」
「あの、狼山先輩――普通の人間は出来ないと思うんですけど……」
ともかく、これで道を作る目処が立った。ここから、反撃開始となればいいんだけど。
――何にせよ、僕の周りに「普通の人間」っていないなァ。




