《第543話》『芽は伸び、金属の板を破らんとす』
「ふっふっふ――ラ・ムーへの対応の芽が、ようやく立ち始めたぞ」
呉葉の提案から、百々百々所長の放送の後、隠れ家たる洞窟は大分騒がしくなった。
それは勿論反撃のため。だが、妖怪たる呉葉の発案であることを知っているこの洞窟のヒトは、乗らない者は当然多かった。そもそも、彼らの多くは対妖怪を考えて戦ってきたのだ。いわば宿敵のようなモノで、信じられないのは当然だろう。
それが故に、誰も信用しなかった。当たり前だ。誰が、敵と認識する相手の言葉に乗るモノか。
――だが、ディア先輩や狼山先輩が、彼らを一喝した。
曰く、「だったらお前らはまとめてここで滅んでいろ」。
それはとても辛辣な物言いで、突き放すような一言。
しかし、それにはっとなった者は数多かった。現状、対応できる手はとても少ない。状況は最悪。例えどんな手、提案したのが誰であっても、それを長々と談義している時間はない。
――それに、彼らとて、守りたいものは表以外にもあるのだ。それは家族か友人か、はたまた恋人か。いずれにせよ、それらを守りたくば、それが何であろうと縋るしかない。
「対応の、芽――?」
「その通りだ。一般の人間が、ラ・ムーへと移動していると思われる瞬間、その方法を掴んだのだ。至る所で監視ロボット的なモノが見張っているせいで、街を張っておくことができなかったが、今回の一件でじっと見て居なくとも移動手段は常時稼働している状況となったために、それを確認するのが容易となった」
「どんな移動手段なの?」
「街の中に、転送装置的なモノが立てられていた。いそいそと乗っかったヤツが消え、さらにそれに続くように次から次へと。全員、ラ・ムー本拠地へ向かったのだろうな」
「――ついでだから聞くけど、街なんかは特には入れないよね? どうやってそれを?」
「山の上から、こう、超視力でな」
「呉葉、普段からテレビゲームやらパソコンやらやってるのに、よく視力落ちないよね」
「妾ではないぞ。確認させたのは、元部下の一人だ。――ちなみに、肝心の妾は、最近少々視力が悪くなりつつ……」
「妖怪なのに――」
「ええい、それはいい! つまり、何が言いたいかと言うとだな! 本拠地の場所など分からずとも、乗り込めるかもしれんと言う事だ!」
「――っ、なるほど、確かに! ……けど、肝心の街へ入ることは出来ないよ? ラ・ムーのロボットの警備は、特に人が住んでるところが厳重だし」
「――姿を消すヤツまでもが攻撃を受けたしな。と言うかそもそも、どうやって区別しているのやら」
どうやら、移動方法を見つけた興奮で、そっちのことはさっぱりだったらしい。元気に見えるが、そこまで頭が回っていないのはちょっと珍しい。やっぱり、呉葉も疲れているのかもしれない。
「なんだ、そんなことか。簡単なことだぜ」
すると、近くで話を聞いていたらしい狼山先輩が、ニヤリと笑った。




