《第540話》『逆襲の宣言』
新生国家ラ・ムーがもたらした、何の苦のない平和な世界。人の生活に必要な仕事は全てロボットが代替し、働く必要も、学ぶ必要もない安息に包まれた世の中。
街は新生国家により完全に復元され、一時的に居住区をうつしていた人々は各々の家へと帰る。
人々が唯一猛りを振るうのは、この世に住まう「悪」、正体の分からない危険な力を葬り去る時のみ。危険など一切なく、身すら守ってくれる長銃が完全サポート。
微細に残った、雑多な負の感情も、ハンティングゲームにより晴らすことができるのであった。
そんな、安全の約束された日常に、巨石が投じられる。
『え、えっと、何々? 「この放送をご覧の皆さんこんにちは。実に。実に波風の立たない春先の湖畔のような生活を、まるでハンモックに身体を横たえるがごとく満喫していることと存じます」』
いつかラ・ムーが行った放送のように。頭頂部の毛髪が些少な男性が突如テレビの画面に映し出され、突然そんなことを言い始めた。
『「我々は、あなたが敵と認識している、かつてこの世の裏にて戦っていた者達です。今やあなた方に追い詰められ、まさに息をするのも苦しい状況であります」』
ラ・ムーに所属した一部の者達は、新生国家によって修復された街へと戻ってきていた。機能などは据え置きで、変わったことと言えば、従わぬ者達に対しての強力な警備体制くらいだ。
『「よって、我々は新生国家ラ・ムーに対して――」え、ほ、ホントにこんなことを言うのですか? ご、ご自分で言ってくださいよぉ! え? ああ、もうっ! わかりましたってばァ!』
すなわち、情報網なども元のまま。この放送は、一般家庭のテレビだけでなく、街頭モニターにまで及んでいる。
『えっと、「新生国家ラ・ムーに対し、」その――「宣戦布告を行いたいと思います!」』




