《第五十三話》『新たなる力』
「貴様は言ったな。妾はひよった、と。確かに、その通りかもしれぬ。鬼の力とは、すなわち怨恨の力であるのだから」
それが、愛によって浄化される。――愛による浄化。なんと心地よい響きだろうか。
「だが、愛がある限り。夜貴を想う、この心がある限り。妾は負けぬ。決して倒れぬのだ。どれだけ傷つけられようが、圧倒されようが」
ある意味、その誰かを想う気持ちと言うのは、どんな心よりも重く座り続けるモノだと、妾は思う。しかし、それはのしかかる負担を感じさせるモノではない。
「だから――貴様が妾の体を切り裂こうが、骨を砕こうが、焼こうが。例え命を奪おうが……ッ! 我が魂は永遠に夜貴に手出しさせぬと思え!」
今感じる体の傷の痛みは、そんな一つの心を守るためにできた、ある意味誇らしいモノだ。過去との決別――などと言うクサいことを言うつもりはないが、もはや己を縛っていた鎖などへでもない。
「――っ、そうか……」
「そう、なのだ」
「ならば――……ッッ」
過去の姿は、それこそ全力で拳を振りかざしてきた。
「……――ッッ!!」
妾はそれを、小細工無しで真正面から拳をぶつける。
「ッッッ!!!」
「ぐ、ぐぐ――ぐッ!」
最初に拳をつき合わせた時の何倍も上回る力のぶつかり合い。逃げ場を失った力は、とてつもない力の波動となり拡散する。
「――っ、……ッッ!!」
「っ! ……――ッッ!!」
妖力を更に込め、さらなる破壊力が向こうから放たれる。それはさも、全盛期での戦いを妾自身に思い起こさせたが、やはり妾にとっては「その程度」に過ぎない。
――やがて、
ぶつかり合う力は、終息する。




