《第538話》『守るためにできること』
「夜貴――では、このまま滅ぼされるのをただ待つと言うのか……?」
呉葉は、一言では言い表しがたい曖昧な表情をしていた。悲しみとも怒りともつかぬ、ハッキリとしない顔。彼女にしては非常に珍しい。
「違うよ。これまでと変わらず、隠れて生きる――ひっそりと裏側で、闇の中で」
「っ、それではまるで、妖怪と同じではないか!」
「うん、その通りだよ」
「違う! 夜貴、お前たちは妾達とは違うのだ! れっきとした人間であり、光当たる世界の住人なのだぞ!」
「違わないよ。少なくとも、彼らにとっては、僕らは妖怪達と何ら変わらない」
重だるい倦怠感と共に、僕は言葉を紡ぐ。
「表の世界の人達は、僕らのように特殊な力を持っているわけでも、それに触れてきたわけでもない。つまり、異状なんだよ。そして、異なる力は彼らにとって正体の分からないモノ」
「…………」
「そして古来より、人々は正体の分からない存在を『妖怪』として扱ってきた。分からない? 彼らにとって、表の世界にとって、僕らは『妖怪』なんだよ」
「…………」
自暴自棄。自分でもわかっていた。こんなこと言ってしまうのは、何かが間違っているって。だけど、仕方ないじゃないか。全ての人たちから敵意を向けられて、それでも僕らが戦う意味がどこにあるっていうの?
しかも、僕らが戦うと言う事は、彼らの今の幸福を否定すると言う事。ならばそれこそ、戦うことは無駄ではないのか。
「――夜貴、」
「…………」
「また久々に、意見を違えることとなったな」
「――っ、呉葉、君は……っ」
またあの時のように、勝手に突っ走っていくつもりだろうか。だけど、呉葉にも無事でいてほしい僕としては、何としてでも止めなければ――、
「だが、妾は今度こそ、お前を守りきらねばならぬ。お前が、なんと言おうともな」




