《第536話》『迫害』
「――本気で、世界はどうなっちまうんだろうねぇ」
ディア先輩のその独り言は、ここに居る誰の耳にも入ったことだろう。しかし、その言葉に対して返答する者は、皆疲れ切っているためか誰もいない。山の中にある洞窟内の緊急待避所は静かだ。
怪獣騒動から、程なくして。僕らは居場所を失った。
あの後、「新生国家ラ・ムー」と名乗る彼らの言葉の後、様々な国から多数の人間が姿を消した。それはこの日本も例外でなく、それは、襲撃者の新たな作戦であると、僕は思っていた。
違った。皆、新生国家ラ・ムーの支配下に入ったのだった。
それは、世界中の裏機関の面々が緊急待避所を作り、今このように隠れていることも関連してくる。
何故なら、彼らがラ・ムーによって作られたモノと思われる武器を携え、僕らに襲い掛かってきたためだ。
皆一様に、銀色の長銃を持ち、特別な力を持った者達へと仕掛けてきたのだ。それは、ラ・ムーが人々の不安を煽ったことが原因であるのは間違いない。
これに対し、裏機関に属する一部の者――どちらかと言うと、傲慢な考えを持った者達が、返り討ちにしようと走った。
だが、彼らは一人残らず敗北した。それはもう、散々な形で。
ラ・ムーに持たされた武器は、ただ攻撃を行うためだけではない。シールドで身を守り、狙いを補助する役割も持っているようで、こちらの力が一切通用しないのだ。そこには、僕らが使うような特殊な力の気配も感じた。
そもそも、本来民衆を守る立場にある僕らが彼らと戦うわけにもいかず、そのような経緯もあり、特殊な結界に覆われた空間を緊急の避難所として使っている次第である。
ちなみに、僕らが隠れている場所は富士山の火口の中だったりする。流石に、おいそれと向こうも手出しは出来ないようである。
だが、手も足も出ないことには変わりない。味方によっては、人質が犯人に同調し、攻撃してくるようなものなのだから。
「奴らは一言も侵略と言ってはいないが、確実に、世界は支配されつつあるな――」
「――ねぇ、呉葉」
「なんだ?」
「――僕、このまま支配するに任せてもいいんじゃないかって、思い始めてきたよ」




